2024年3月19日火曜日

【4月13日開幕!】静嘉堂文庫竣工100年・特別展「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」

東京駅すぐ近くの明治生命館1階にある静嘉堂@丸の内では、静嘉堂文庫竣工100年目を記念して、幕末から明治にかけて活躍した多才な二人の交流の足跡を紹介する特別展が開催されます。

展覧会ポスタービジュアル


特別展のタイトルは「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」
独創的な画風を展開した絵師・河鍋暁斎(1831-89)と、探検家、好古家、著述家で北海道の名付け親・松浦武四郎(1818-88)は、活躍する分野こそ違いましたが、二人の間には交流があり、暁斎が武四郎の依頼を受けて、武四郎の愛玩品図録『撥雲余興』の挿絵の一部や、武四郎を釈迦に見立てた「武四郎涅槃図」を描いています。

サブタイトルは「地獄極楽めぐり図」から リアル武四郎涅槃図まで
暁斎の代表作「地獄極楽めぐり図」(静嘉堂蔵)と重要文化財「武四郎涅槃図」(松浦武四郎記念館蔵)が16年ぶりに競演することをはじめ、見どころいっぱいの展覧会なので、今から開幕が待ち遠しいです。

展覧会開催概要


会 期  2024年4月13日(土)~6月9日(日)
会 場  静嘉堂@丸の内(東京都千代田区丸の内2-1-1明治生命館1階)
開館時間 10:00-17:00
 ※土曜日は18:00、第四水曜日は20:00閉館。入館は閉館時間の30分前まで
休館日  月曜日、5月7日(火) ※4月29日(月・祝)、5月6日(月・祝)は開館
入館料  一般 1,500円 大高生1,000円 中学生以下無料 
※チケットの購入方法、展覧会の詳細、関連イベント等は静嘉堂文庫美術館公式サイトをご覧ください⇒https://www.seikado.or.jp/



河鍋暁斎(画鬼 暁斎)



見どころ1 「地獄極楽めぐり図」×「武四郎涅槃図」16年ぶりの競演!!


「地獄極楽めぐり図」は、パトロンの早世した娘・田鶴(たつ)の追善供養にと暁斎が依頼された画帖で、田鶴が冥界ツアーを楽しみ極楽浄土に到達する場面が描かれていて、今回は全40図が全場面公開されます(会期中場面替えあり)。

河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」明治2~5年(1869-72)
静嘉堂蔵 ※会期中場面替えあり

河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」明治2~5年(1869-72)
静嘉堂蔵 ※会期中場面替えあり


見どころ2 初の試み「これぞリアル武四郎涅槃図」!


 今回のユニークな試みは、「武四郎涅槃図」が展示されるだけでなく、そこに描かれた武四郎の愛玩品が松浦武四郎記念館、静嘉堂の双方から集結して立体的に再現されることです。

重要文化財 河鍋暁斎「武四郎涅槃図」
明治19年(1886) 松浦武四郎記念館蔵

横たわる武四郎が首に着けている「大首飾り」や後方の赤い台座の上の仏像、さらには登場する人物たちの肖像画が展示されるので、ぜひ「武四郎涅槃図」と見比べながら楽しみたいです。

松浦武四郎(鬼才 武四郎)明治15年(1882)撮影
松浦武四郎記念館蔵

武四郎65歳の肖像写真でも自慢げに身についけている「大首飾り」はこちらです。

「大首飾り」縄文時代~近代 静嘉堂蔵


見どころ3 『撥雲余興』にみる暁斎挿絵の品はやっぱりユニーク!再現力抜群!


『撥雲余興』とあわせて挿絵に描かれた実物も同じ空間に展示されるので、武四郎の愛玩品のユニークさも暁斎の抜群な再現力も見ることができます。

『撥雲余興』より「古銅老猿仮面」河鍋暁斎挿絵
明治10年(1877) 静嘉堂蔵


「老猿面」年代不詳 静嘉堂


『撥雲余興』より「鬼面鈴」河鍋暁斎挿絵
明治15年(1882) 静嘉堂蔵

「鬼面鈴」年代不詳 静嘉堂蔵 

どちらもなぜこのようなものを蒐集するのかと思ってしまいますが、あらためて武四郎の旺盛な好奇心に驚かされます。


そして、松浦家伝来の暁斎作品や、武四郎蒐集の古物の目録『蔵品目録』掲載の資料で、近年静嘉堂が所蔵することが再認識された古写経類、天神像などの書画も展示されます。

ここでは天神信仰にまつわる作品をご紹介します。

はじめに松浦家伝来の暁斎筆「野見宿禰(のみのすくね)」絵馬額(松浦武四郎記念館蔵)。
これは天神様でないと思われるかもしれませんが、相撲取りの祖として伝えらる野見宿禰は土師臣となり、土師氏の中に菅原姓を名乗るものが出たことから、菅原道真は野見宿禰の末裔とする説があるのです。

河鍋暁斎「野見宿禰」明治17年(1884)
松浦武四郎記念館蔵

続いては『蔵品目録』に掲載されている静嘉堂秘蔵の武四郎旧蔵「天神像」。

「渡唐天神像」(伝啓書記筆相国寺万里居士賛)
室町時代 静嘉堂蔵

「渡唐天神像」は、菅原道真が唐に渡ったとの伝承に基づいて室町時代の禅宗の寺院で盛んに描かれたもので、この作品の作者と伝わる「啓書記」とは、鎌倉・建長寺の書記で、落ち着いた雰囲気のある水墨の山水画を描いた画僧・賢江祥啓のことです。

こちらも『蔵品目録』に掲載されている「渡唐天神像」です。

伝土佐光起「渡唐天神像」江戸時代
静嘉堂蔵


「画鬼」と「鬼才」、二人の「鬼」がコラボするとどのような内容になるのか、とても楽しみな展覧会です。

2024年2月25日日曜日

山種美術館 公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」

東京・広尾の山種美術館では、公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024ー未来をになう日本画新世代―」が開催されています。

展覧会チラシ

今年で第3回目を迎える公募展(#Seed2024)は、コロナ禍の影響で2年間延期されていたので、とても待ち遠しく楽しみにしていました。
遅ればせながら2月24日(土)にお伺いしてきましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2024年2月17日(土)~3月3日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 700円、学生及び未就学児無料(中学生以下は付添者の同伴が必要)
     渋谷区民の方は入館無料(住所が確認できるものの提示が必要)

※ほかにも割引・特典、他館との相互割引サービスがあります。また、関連イベントとして受賞・入選者によるアーティストトークも開催されますので、詳細は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/

アーティストトークは、土日の午前11時からと14時から開催されて、作家さんの作品に対する思いや苦労したことなどをお伺いできるので、機会があればぜひご参加いただきたいです。毎回数名の受賞・入選された作家さんが参加されます。
  
※今回の展覧会では、受賞・入選作品に限りスマートフォン・タブレット・携帯電話での撮影が可能です。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。


#Seed2024では、全153点の応募作品の中から厳正な審査を経て選ばれた大賞1点、優秀賞1点、特別賞(セイコー賞)1点、特別賞(オリコ賞)1点、奨励賞6点を含む入選作品全45点が展示されています。

展示風景
右から 特別賞(セイコー賞) 早川実希《頁》
大賞 北川安希子《囁き―つなぎゆく命》
優秀賞 重政周平《素心蠟梅》
特別賞(オリコ賞) 前田茜《山に桜》


新進気鋭の作家のみなさんの力のこもった作品ばかりで、公募展を見る時はいつも「私のお気に入りの一品」を探すのですが、今回は特に悩み、展示室内をうろうろしながら考えてしまいました。(「私のお気に入りの一品」は最後にご紹介します。)

展示を見た最初の印象は、月並みですが「やはり日本画はいいなあ。」と思ったことで、とても心地よい気分で作品を見ることができました。
それは、ただ単に画材として岩絵具を使っているということでなく、画題が季節の草花だったり、技法も金箔などを貼っていたりなど古くからの日本画をベースにしながら、その上に新たな試みにチャレンジしている作品が多かったからなのです。

展示風景
右 福島恒久《歳寒三友図》 左 朴泰賢《仰見》 


金箔など継ぎ目「箔足」の大ファン(?)の筆者としては、箔足を見ただけで「わぁ、いいな!」と思ってしまうのですが、その上に作家さん独自の表現を楽しむことができました。

こちらは、子どもを画題にした作品が多いという宮腰有希乃さんの《ひかりめぐる》。

宮腰有希乃《ひかりめぐる》

土日に開催されるアーティストトークの時間にあわせて行ったので、宮腰さんのお話を直接おうかがいすることができました。

画面全体に黄金色に染まるイチョウの落ち葉が舞い、三日月の上に座る子どもの頭にはオナガドリがとまるというファンタジーの世界が描かれているこの作品は、背景には金箔を貼り、三日月の部分は輝きを出すため金箔を重ねているとのことです。

確かに三日月はイチョウの落ち葉に比べてより一層輝いているように見えます。
この作品は、一目見ただけでも幻想的な雰囲気が感じられますが、やはり作家さんのお話をお伺いすると作品の良さがより深く伝わってきます。


学生時代から海面を描き続けていた清水航さんの《飛沫(しぶき)》にも箔が貼られているのには驚かされました。

清水航《飛沫》


ホッキョクグマの白と水面のエメラルドグリーンの色の対比が鮮やかな作品ですが、この色を出すためトルコ石を下地に全面に真鍮箔を貼り、それを塩化アンモニウムで腐食させ(※)、さらにその上に岩絵具を塗ったとのこと。
(※)真鍮は銅と亜鉛の合金なので、腐食させると銅のサビ・緑青が出てきます。


この日はほかに小針あすかさん(作品名《珊瑚の風》[奨励賞])、吉澤光子さん(作品名《一羽》)、林銘君さん(作品名《出口》)のアーティストトークをお伺いすることができました。

伝統的な技法の箔を使う作品がある一方、思いがけない画材を使っているのが田中寿之さんの《ドレス》でした。

田中寿之《ドレス》

日本画の技法だけでなく、様々な素材をコラージュして制作されたこの作品には、岩絵具だけでなく、布や凧糸、ステンレス針などが使われていて、今回の入選作品の中でも特に異彩を放っていました。
伝統的な日本画の画題や技法に根差した作品はもちろん好きですが、戦後、日本画界に新風を吹き込み、2020年に惜しくも解散したパンリアル美術協会のように、新たな表現をめざした作品にも魅力を感じます。

そして最後に「私のお気に入りの一品」をご紹介します。
それは陳映千さんの《息》です。

陳映千《息》

画面右にはもやがかかった木々の中に流れ落ちる滝、左には暗闇の中に浮かぶ塔。
屋根にかすかにかかる陽の光を表す金色と、塔の欄干の朱色がいいアクセントになってるところに特に惹かれました。

川合玉堂、速水御舟はじめ巨匠たちが今回の公募展の応募者と同じ20代から40代の頃に制作した作品も展示されています。

会期は短く、3月3日(日)まで。
アーティストトークは2日(土)と3日(日)がラストチャンスです。

ぜひその場でご覧いただいて、「お気に入りの一品」を見つけてみてはいかがでしょうか。

2024年2月19日月曜日

大倉集古館 企画展「大倉集古館の春ー新春を寿ぎ、春を待つ」

東京・虎ノ門の大倉集古館では、企画展「大倉集古館の春ー新春を寿ぎ、春を待つ」が開催されています。

大倉集古館外観

今回の企画展は、大倉集古館の所蔵品の中から春や今年の干支の「辰」にちなんだ絵画、工芸品などが展示されていて、春らしいとても華やいだ雰囲気の展覧会です。

展覧会開催概要


会 期  2024年1月23日(火)~3月24日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料  一般 1,000円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
休館日  毎週月曜日(休日の場合は翌火曜日)
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.shukokan.org

※展示されている作品はすべて大倉集古館所蔵です。
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より広報用にお借りしたものです。

展示構成
 第1章 寿ぎの造形~扇
 第2章 辰年の造形~龍
 第3章 季節の造形~雪・梅・桜の絵画
 第4章 めでたさの造形~工芸品 


第1章 寿ぎの造形~扇では、おめでたい「末広がり」の扇が舞う作品がお出迎えしてくれます。



《扇面流図屏風》宗達派、江戸時代・17世紀(右隻)



《扇面流図屏風》宗達派、江戸時代・17世紀(左隻)


浪の間を流れるように舞うのは、金色に輝くいくつもの扇。
扇面には蓮、菊、竹、梅など、さまざまな草花が描かれていて、とても華やいだ雰囲気です。

俵屋宗達の工房で制作されたことを表す「伊年」印が捺されている宗達派の名品《扇面流図屏風》は、当初一双のうち片方だけが大倉家に所蔵されていましたが、不思議なご縁で左右そろって大倉集古館に所蔵されることになりました。

同じく第1章の《古屏風奇遇乃記》(福地源一郎書、荒木探令画)に記されている奇跡の再会のいきさつはとても興味深いです。

次に、扇面に花や山水が描かれた明~清朝時代の作品《清朝名人便面集珍》16図の中から4面の扇面が続きます。
ご紹介するのは、清朝・康熙帝時代(在位1661-1722)に活躍した満州人で、宮廷画家・赫奕(かくえき)の「青緑山水図」。



「青緑山水図」(《清朝名人便面集珍》のうち)赫奕(1655-1731)筆
中国・清時代・17~18世紀

水墨で描かれたモノトーンの山水画も趣きがありますが、濃厚な群青や緑青を用いた「青緑山水」は、山の緑が映えてとても鮮やかです。

清朝初期の6人の代表的な文人画家「四王呉惲」(※)の一人、王原郝とともに「南王北赫」と並び称された赫奕の《青緑山水図》は、王原郝とも交流があったからでしょうか、中国・江南地方ののびのびとした景色を描いているように感じられました。
(※)王原郝、王鑑、王時敏、王翬、呉歴、惲寿平の6人


第2章 辰年の造形~龍 には、今年の干支「龍」にちなんだ作品が展示されています。

今年は多くの美術館・博物館で龍が描かれた絵画や工芸品を見ることができますが、日本では珍しい中国・清〜中華民国時代の衣装が見られるのは、中国美術の保護に努め、中国の古典劇のひとつ「京劇」を日本に紹介した大倉喜八郎氏が創設した大倉集古館ならではの展示ではないでしょうか。

この衣装は《蟒袍(ホウホウ、まんぱお)》と呼ばれ、官吏の衣装のことを指すのですが、これは中国の古典劇のひとつ「京劇」で使われていた衣装と考えられています。


《蟒袍》清時代末~中華民国時代・20世紀

虹色の部分は海水を表し、波間の中央には立石、その上には国家統一を意味するハート形の祥雲が浮かび、天下泰平を象徴する龍が天を舞う鮮やかなデザインに目を惹かれます。


鷹を描くのを得意とした曽我二直庵が珍しく描いた龍の作品も展示されています。



  



《蜆子和尚・龍虎図》曽我二直庵筆 江戸時代・17世紀

いかにも獰猛そうな鷹を写実的に描く二直庵ですが、想像上の動物なので当然見たこともない龍はどことなくユーモラス。虎も実物は見たことがないのかもしれませんが、やはり可愛らしく描かれています。
中央の蜆子和尚は、蝦や蜆をとって食べ、夜は神祠の中に寝たといわれた中国・唐末の禅僧です。

《蜆子和尚・龍虎図》は、狩野探幽の《文殊菩薩・雲龍・竹虎図》と並んで展示されているので、龍の表情の違いを見比べることができます。


第3章 季節の造形~雪、梅、桜の絵画には、梅の香や春の気配を知らせる作品が展示されています。

こちらは狩野探幽の三兄弟、上から探幽、尚信、安信のうち真ん中の尚信の長男で、探幽亡きあと江戸狩野の中心人物として活躍した狩野常信の《梅鶯図》。





《梅鶯図》狩野常信筆、江戸時代・17世紀

右幅と左幅には中央の梅の老木に向かって鳴いている鶯が描かれていて、春の訪れを告げる「ホーホケキョ」というさえずりが聞こえてきそう。
梅の幹や枝の間にたなびく霞が幻想的な雰囲気を醸し出しています。

続いては、《扇面流図屏風》と並んで今回の企画展のメインビジュアルになっている横山大観の《夜桜》。


《夜桜》横山大観筆、昭和4年(1929) (右隻)


《夜桜》横山大観筆、昭和4年(1929) (左隻)

これは大倉喜七郎氏の全面支援により昭和5年(1930)にローマで開催された「日本美術展覧会(ローマ展)」に出品された作品で、大画面の屏風にかがり火に照らされた桜が全面に描かれた華やかで大迫力の《夜桜》は、ミケランジェロやラファエロの大作を見慣れているローマっ子たちも驚いたのではないでしょうか。

実際に横山大観をはじめ、竹内栖鳳、川合玉堂ほか当時の日本画界を代表する画家80名の177点の作品が展示された一大プロジェクト「ローマ展」は多くの観覧者を集め、大成功のうちに終わりました。
2020年に大倉集古館で開催された企画展「1930ローマ展開催90年 近代日本画の華」をご覧になられた方は当時の盛り上がりを感じ取られたのではないでしょうか。


第4章 めでたさの造形~工芸品には、めでたさや季節を感じさせる名工たちの工芸品が展示されています。

正倉院御物整理掛として正倉院宝物の修理を行った名工・木内半古による《四君子象嵌重硯箱》は、白玉(はくぎょく)やべっ甲などを嵌め込んだ象嵌で四君子を表した華やかな雰囲気の作品です。
「四君子」とは蘭、竹、菊、梅のことで、徳を備えた君子に見立てて中国や日本などで画題とされてきました。
この作品は独立ケースに入っているので、ぜひ四方をぐるりと回って象嵌で立体的になっている「四君子」を近くでご覧いただきたいです。


《四君子象嵌重硯箱》木内半古作、昭和6年(1931)

おめでたい図柄の焼き物の大皿も展示されています。



《色絵芙蓉手花鳥図大皿》伊万里、江戸時代・18世紀 

皿の見込み(中央の円形部)の周囲に蓮弁状の区画をつけているデザインが芙蓉の花を連想させることから「芙蓉手」とつけられたこの大皿はとてもカラフル。
見込みには赤、青、緑、黄で描かれたつがいの鳥や花々が描かれていて、この季節にふさわしい作品です。


地下1階の「見どころルーペ」ぜひお試しを!

地下1階の通路にある2台の大きなモニター画面が「見どころルーペ」
はじめに画面にある《扇面流図屛風》や《夜桜》ほかの作品から一つ選ぶと画面いっぱいにその作品が映し出され、指で触れるとその部分がルーペのように拡大されます。
さらに指を動かしていくと所々で、例えば《夜桜》では「金泥を背景に花と葉が光り輝きます」といった作品の見どころのワンポイント解説などが出てきます。


少しずつ近づいている春の気配が感じられて心が和む展覧会です。
おすすめです!

2024年2月4日日曜日

東京国立博物館 建立900年 特別展「中尊寺金色堂」

今年(2024年)は、平安時代後期、およそ百年にわたり平泉を中心に奥羽を支配した奥州藤原氏の栄華を今に伝える中尊寺金色堂の建立900年に当たる節目の年。
この記念すべき年に、中尊寺に安置されている国宝の仏像はじめ、金色堂を飾っていたまばゆいばかりの工芸品の数々が展示される特別展「中尊寺金色堂」が東京国立博物館で開催されています。


展覧会チラシ

展覧会開催概要


会 期  2024年1月23日(火)~4月14日(日)
     前期:1月23日(火)~3月3日(日) 後期:3月5日(火)~4月14日(日)
会 場  東京国立博物館 本館 特別5室
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
     ※2月9日(金)以降、金・土曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
休館日  月曜日、2月13日(火)
     ※ただし、2月12日(月・休)、3月25日(月)は開館
観覧料  一般 1,600円、大学生 900円、高校生 600円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
※本展は事前予約不要です。混雑時は入館をお待ちいただく可能性があります。
※会期中、一部作品の展示替えがあります。

展覧会の詳細等は、展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://chusonji2024.jp/


※会場内は《金色堂模型》(縮尺5分の1)を除き撮影不可です。
※掲載した写真は報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。


今回の大きな見どころは何といっても、金色堂内にある3つ須弥壇のうち中央檀上の国宝仏像11体がそろって公開されていることです。

展示風景


金色堂内の3つ須弥壇には阿弥陀三尊、六地蔵、二天像の11体の仏像が安置されていますが、上の写真はそのうちの阿弥陀如来坐像(上の写真中央)、観音菩薩立像(同右)、勢至菩薩立像(同左)の阿弥陀三尊像。

阿弥陀如来坐像は、中央檀の主尊像なのでいわば金色堂のご本尊といえる存在なのですが、現地ではこれほど近くで拝むことはできないので、とてもありがたいです。

国宝《阿弥陀如来坐像》平安時代・12世紀
中尊寺金色院

近くから、そして360度ぐるっと回って拝むことができるからこそわかることもあります。
優雅なたたずまいは当時の京都仏師の流れをくんでいますが、後頭部の螺髪(らほつ)が逆V字型に刻まれていることや、右肩にかかる衣を別材で造るのは新しい感覚で、奥州藤原氏が新たな造形や技法を受け入れる柔軟性を持っていた証であることが指摘されているのです。

阿弥陀三尊像の両脇には六地蔵が3体ずつ、その前には二天像が展示されているので、現地ではできないことですが、まるで中央檀の中を回遊するかのように仏様を拝むことができるという贅沢な体験ができます。

展示風景

六体のお地蔵さんは微妙に顔つきが異なりますが、みなさんおだやかないい表情をしています。

展示風景



邪鬼を踏みつけにらみを利かせる増長天立像。
どことなくユーモラスな邪鬼の表情との対比が増長天の迫力を一層引き立てているように感じられました。


国宝《増長天立像》平安時代・12世紀
中尊寺金色院

「現存するのは日本で唯一、日本最古」という経典が見られるのも今回の展覧会の大きな見どころの一つです。

初めにご紹介するのは、紺紙に金字と銀字で行ごとに交互に書写した一切経(さまざまな仏教典籍を集成したもの)の国宝《紺紙金銀字一切経》。
これは、奥州藤原氏の初代・清衡が莫大な富を背景として発願したもので、8年の歳月をかけて五千巻を超える経典が制作されるという大事業でした。
江戸時代までに大部分が高野山に納められ、中尊寺には現在25巻が所蔵されていますが、このような金銀交書経は珍しく、一切経で現存するのはこの中尊寺経のみという貴重なものなのです。

国宝《紺紙金銀字一切経》平安時代・12世紀
中尊寺大長寿院 ※前期後期で展示替えあり

遠くから見ると塔が描かれているように見えるのですが、実はこの塔は金泥を用いて写した『金光明最勝王経』の経文によって表されているのです。

国宝《金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅》平安時代・12世紀
中尊寺大長寿院 ※前期後期で展示替えあり


経文の文字によって宝塔を描く作例は他にもありますが、『金光明最勝王経』によるものはこの作品が唯一で、かつ日本で作られた宝塔曼荼羅として現存最古という、こちらも貴重なものなのです。

宝塔の周囲には釈迦説法図などが描かれていますが、仏様や人々の顔はみんな「なごみ系」。見ていて自然と心がなごんできます。
ぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです。

最後に展示されているのが縮尺5分の1の《金色堂模型》。
この作品だけは撮影可です。

《金色堂模型》縮尺5分の1 昭和時代・20世紀
中尊寺

光り輝く《金色堂模型》の中には須弥壇はありますが、仏像は安置されていません。
今までご覧いただいた仏像が安置されている姿を思い浮かべながら中を覗くとその場にいるような気分になってきます。


会場を出てすぐの特設ショップには展覧会オリジナルグッズが盛りだくさん。
当然オリジナルグッズも充実しているのではと思いましたが、想像をはるかに超える充実ぶりでした。

最初に驚かされたのは、金色堂を背景に勢ぞろいした11体の国宝仏像のアクリルスタンド。
お部屋に飾れるコンパクトサイズです。
 


続いては、最初は何の物体だろうと思いましたが、国宝の持国天立像に踏みつけられている邪鬼をかたどったぬいぐるみ。
クッションにも最適。あまりにも可愛いので「悪さをしなければ踏みつけないからね。」と言いたくなってしまいます。



金色に輝く豪華な表紙、そしてハードカバーの図録もおすすめです。
今回のために撮り下ろした本展展示作品50件をフルカラーの図版で紹介しているだけでなく、仏像の拡大写真や多彩なコラムや論文、作品解説、そして四季折々の中尊寺の風景画像も掲載しているので、その場の雰囲気が伝わってくる貴重な1冊です。




間近で見られる国宝の仏像、華やかで貴重な経典はじめこの場でしか味わえない中尊寺金色堂の雰囲気をぜひお楽しみください!

2024年2月3日土曜日

東京国立博物館 特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

東京・上野公園にある東京国立博物館 平成館では、特別展「本阿弥光悦の大宇宙」が開催されています。

今回の展覧会のメインビジュアルになっているのはキラキラ輝く本阿弥光悦作の国宝《舟橋蒔絵硯箱》(東京国立博物館)。展示室内でもこの作品が冒頭でみなさまをお出迎えしてくれます。

東京国立博物館 平成館外壁の案内看板


「始めようか、天才観測。」という謎めいたキャッチコピーも気になりますが、これは誤植ではありません。
星空を見上げる「天体観測」ではなく、「天才芸術家」本阿弥光悦が作り出した蒔絵の硯箱や絵巻物、陶器のように決して大きくない作品の中に広がる大きな宇宙が楽しめる展覧会なのです。


展覧会開催概要


会 期  2024年1月16日(火)~3月10日(日)
     ※会期中、一部作品の展示替えがあります。
会 場  東京国立博物館 平成館
休館日  月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月・休)は開館
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
観覧料(税込) 一般:2,100円、大学生:1,300円、高校生:900円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等の提示が必要。
※本展は事前予約不要です。混雑時は入場をお待ちいただく可能性があります。

展覧会の詳細等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://koetsu2024.jp/

展示構成
 第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉
 第二章 謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち
 第三章 光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技
 第四章 光悦茶碗ー土の刀剣

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。
※展示期間の表記のない作品は通期展示予定の作品です。


本阿弥光悦(1558-1637)は、流麗な書やきらびやかな蒔絵の硯箱などで知られていますが、光悦が生まれた本阿弥家は刀剣鑑定の名門家系で、光悦自身も刀剣鑑定の優れた力量を持っていました。
第一章では本阿弥家によって高く評価された鎌倉時代後期の相州鍛冶・正宗ほかの作による国宝4件をはじめ名刀がまばゆいばかりの輝き放っているので、刀剣ファンは見逃すわけにはいきませんね。

「第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉」展示会場風景
左から、国宝《刀 無銘 正宗(名物 観世正宗)》相州正宗 鎌倉時代・14世紀
東京国立博物館、国宝《刀 金象嵌銘 城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押)》
相州正宗 鎌倉時代・14世紀 東京国立博物館 

光悦が実際に腰に着けていたと伝わる唯一の短刀や、蒔絵の装飾が見事な刀装(刀の外装)も
刀剣ファン必見です。


「第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉」展示会場風景
左から、重要美術品《短刀 銘 兼氏 金象嵌 花形見》志津兼氏
鎌倉~南北朝時代・14世紀、《(刀装)刻鞘変り塗忍ぶ草蒔絵合口腰刀》
江戸時代・17世紀



光悦が熱心な日蓮法華宗の信徒であったことがうかがえるのも今回の展覧会の特徴です。

突如目の前に出現したのは、寺院の建物などに掲げられている扁額(へんがく)。
いずれも光悦が揮毫したものですが、堂々とした書体に驚かされます。


「第一章 本阿弥家の家職と法華信仰ー光悦芸術の源泉」展示会場風景
左から、《扁額「学室」》原品:本阿弥光悦筆 明治2年(1869)再刻
京都・常照寺、《扁額「本門寺」》本阿弥光悦筆 江戸時代・寛政4年(1627)
東京・池上本門寺、《扁額「妙法華経寺」》本阿弥光悦筆 江戸時代・寛政4年(1627) 
千葉・中山法華経寺、《扁額「正中山」》本阿弥光悦筆 江戸時代・17世紀
千葉・中山法華経寺


紺紙でなく珍しく紫紙に金字で書かれた経典は、重要文化財《紫紙金字法華経幷開結》(京都・本法寺)。
この経典は平安中期の能書家(書の名人)で「三蹟」の一人、小野道風(894-966)の写経と伝わり、第二章で展示されている重要文化財《花唐草文螺鈿経箱》(京都・本法寺)とともに、光悦によって京都・本法寺に寄進されたものです。

重要文化財《紫紙金字法華経幷開結》平安時代・11世紀
京都・本法寺 ※会期中、部分巻き替えがあります


こちらが重要文化財《花唐草文螺鈿経箱》(京都・本法寺)。
螺鈿(貝殻の光沢のある部分を嵌め込む工芸技法)による「法華経」の文字の周りに配置された唐草文は、まるで舞っているかのようにリズミカルに感じられます。

重要文化財《花唐草文螺鈿経箱》本阿弥光悦作
江戸時代・17世紀 京都・本法寺


京都・本法寺ゆかりの芸術家でよく知られているのが、東京国立博物館が所蔵する国宝《松林図屏風》の作者・長谷川等伯(1539-1610)。
法華信徒の縁で本法寺との付合いがあった等伯が、若くして亡くなった息子の久蔵の七回忌追善供養のために描いた長さ約10m、幅横6mに及ぶ大作、重要文化財《佛涅槃図》ほかの作品が同寺に所蔵されています。

京都の町衆(裕福な商工業者)や法華信徒のネットワークを築いて、書、漆芸、陶芸など総合芸術家として活躍した光悦が、偶然等伯と本法寺の境内で遭遇して、それがきっかけでコラボしたらどんな作品が生まれたのだろうか、と勝手に想像してしまいました。


実際に光悦とコラボしたのは、国宝《風神雷神図屏風》(京都・建仁寺)の作者・俵屋宗達(生没年不詳)。

こちらは宗達の筆によると伝わる屛風に、光悦が『古今和歌集』の和歌を一首ずつ書き記した色紙が貼られた、天才芸術家二人が競演する超豪華な作品《桜山吹図屛風》です。

《桜山吹図屛風》色紙:本阿弥光悦筆、屛風:伝俵屋宗達筆 
江戸時代・17世紀 東京国立博物館

金銀泥で装飾された色紙一枚一枚の文様がどれも見事なので、近くでじっくりご覧いただきたいです。


今回の展覧会のもう一つの特徴は、華麗で斬新な意匠の「光悦蒔絵」の作品が、光悦がたしなんだ謡曲(能楽の文章)が書かれた謡本の装飾から受けた影響がよくわかることです。


「第二章 謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち」展示会場風景

雲母(うんも)の粉末を施した雲母摺(きらずり)の料紙、金銀泥で描かれた草花など贅を尽くした装飾の謡本と「光悦蒔絵」の作品が向かい合わせに展示されているので、両方を見比べながら「光悦蒔絵」の世界を楽しむことができます。


「第二章 謡本と光悦蒔絵ー炸裂する言葉とかたち」展示会場風景
重要美術品《忍蒔絵硯箱》江戸時代・17世紀 東京国立博物館


今回の光悦展の大きな見どころの一つは、長さ13mに及ぶ重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》(京都国立博物館)はじめ絵巻物が全期間かつ全面展示されることです。

絵巻物は展示スペースの関係で一部だけ展示されていることがよくありますが、今回はこのようにゆったりとした空間で最初から最後まで全部見られるのがうれしいです。

「第三章 光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技」展示会場風景

圧巻は何といっても重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》(京都国立博物館)。
水辺にたたずむ鶴の群れが飛び立ち、波間に向かって降り、また空に向かって昇り、そしてふたたび水辺に降り立つ様が描かれた下絵は俵屋宗達によるもので、まるで動画を見ているような動きが感じられます。

その鶴の下絵の上に書かれた光悦による三十六歌仙の秀作三十六首を見ていると、鶴の羽ばたく音を聞きながら三十六歌仙の和歌がメロディーを伴って流れてくるように思えてきました。


重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》本阿弥光悦筆
俵屋宗達下絵 江戸時代・17世紀 京都国立博物館

音楽のアクセントのように太い文字と細い文字が配置された「肥痩をきかせた筆線」が特徴の光悦の書と、金銀泥で描かれた下絵が競演している作品からも心地よい調べが聴こえてくるようです。

「第三章 光悦の筆線と字姿ー二次元空間の妙技」展示会場風景
《蓮下絵百人一首和歌巻断簡》本阿弥光悦筆 江戸時代・17世紀
(左)京都・樂美術館、(右)サントリー美術館 展示期間:1月16日(火)~
2月4日(日) ※会期中、展示替えがあります


そしていよいよクライマックスの第四章へ。

照明を落とした展示室内はまるでプラネタリウムの中に入り込んだよう。

「第四章 光悦茶碗ー土の刀剣」展示会場風景


ここで輝きを放っているのは何万光年も彼方の星座ではなく、眼の前の小さな光悦作の茶碗に広がる雄大な景色なのです。

元和元年(1615)、徳川家康から京都北部の鷹峯の地を拝領した光悦は、この地に住み、茶碗づくりを生業とした樂家(らくけ)との交流を通じて茶碗の制作づくりに励みました。

光悦が作る茶碗の特徴は「手捏ね(てづくね)」。
形は均一でなく、ひび割れもあったりして一見すると無骨なように見えますが、土をこねたり、茶碗をかたちづくるときの手の動きがわかるようで、見ているうちに味わいが深まってくるものばかりです。

《黒楽茶碗 銘 村雲》本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀
京都・樂美術館




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