2017年5月6日土曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(2)

1 かげりが見え始めたシュルツ効果

 3月26日に行われたザールラント州選挙の前あたりからSPDのシュルツ候補の勢いにかげりが見え始めている。
 ZDFの調査を見ても、シュルツ候補は3月まではメルケル候補に互角の闘いを挑んでいたが、4月に入り徐々にメルケル候補にリードを広げられている。

 質問「首相としてどちらが望ましいか」
   1月   シュルツ候補 40% メルケル候補 44%
   2月   シュルツ候補 49% メルケル候補 38%
   3月   シュルツ候補 44% メルケル候補 44%
   4月7日  シュルツ候補 40% メルケル候補 48%
   4月28日 シュルツ候補 37% メルケル候補 50%

2 シュルツ候補は首相になることができるか?

 各政党の支持率を見てもSPDは勢いを失いかけているのがわかる。
 同じくZDFの調査では、CDU/CSUがわずかに支持率を上げた一方で、SPDは支持率を下げているので、各政党の支持率をシュルツ候補が首相になるために必要となるSPD主導の連立の三パターンに当てはめてみると、依然として厳しい状況が続いている。

  各政党の支持率(4月28日調査) カッコ内は3月調査時との増減比
   CDU/CSU 37%(+3%)、SPD 29%(-3%)、左派党 9%(+1%)、
   緑の党 8%(+1%)、FDP 6%(+1%)、AfD 8%(-1%)、その他 3%(-2%)

   パターン① SPD主導による大連立
         SPD 29% < CDU/CSU 37% ⇒ ×
   パターン② 赤緑連立
         SPD 29%+緑の党 8% =37%<過半数 ⇒ ×
   パターン③ 赤赤緑連立
         SPD 29%+左派党 9%+緑の党 8% =46%<過半数 ⇒ × 

3 ドイツの有権者が望むのは大連立

 前回見たように、「アジェンダ2010」の修正を主張して旧SPD左派を呼び戻そうとしたシュルツ候補。
 SPDにとってシュルツ効果のインパクトは強かった。
 かつては20%そこそこで低迷していたSPDの支持率を一気に30%台に上げ、新たに1万人以上の党員を獲得することができた(※)。
 (※)3月2日にSPDは「最近5週間で1万人以上の新たな党員を獲得した。2月末現
  在、党員数は438,829人で、CDUの党員数430,683人を超えた。」と発表してい
  るが、フランクフルターアルゲマイネ紙は同日付の公式サイトの記事で、2016年末
  のSPDの党員数は432,706人で、2月末現在では6,000人あまりしか増えていない、と
  皮肉っぽく報じている。

 このままの勢いで州議会選挙を乗り切ろうと目論んでいた矢先、思わぬところから伏兵が出てきた。
 それはザールラント州の選挙結果の分析で述べるが、今まで投票に行かなかったが、左に舵が切られるのを望まない、いわゆる「無党派層」(※)の存在である。
 (※)ドイツ語では"Nichtwähler"で、直訳すると「選挙に行かない人」だが、ここでは
  今までは選挙に行かず特定の支持政党もない有権者という意味で便宜的に「無党派
  層」と訳す。
   

 4月7日のZDF調査では多くの有権者が左派連立でなく大連立を望むという結果が出ている。

 質問 どの連立が望ましいか?

連立の形態
望ましい
望まない
   CDU/CSU,SPD
49%
31%
   SPDFDP
23%
52%
   CDU/CSUFDP
21%
53%
   SPD左派
24%
62%


(参考)連立の名称
 ①は二大政党が連立するので「大連立」、②は政党のカラーがそれぞれ赤、緑、黄なので「信号連立」、③は政党のカラーが黒、緑、黄なのでジャマイカの国旗にちなんで「ジャマイカ連立」、④は政党のカラーそのもので「赤赤緑連立」。ちなみに、バーデン=ビュルテンベルク州の緑の党とCDUの連立は、果物のキウイを切ると緑の実の中に黒いつぶつぶがあるのでそれになぞらえて「キウイ連立」と呼ばれている。

4 ザールラント州議会選挙の結果

 各政党の得票率と議席獲得数は次のとおり、シュルツ効果は及ばず、CDUの勝利に終わった
  
政党名
得票率
獲得議席数
コメント
CDU
40.7%(5.5%)
24(5)
単独過半数にあと一歩の勢い
SPD
29.6%(1.0%)
17(±0)
シュルツ効果及ばず横ばい
左派党
12.9%(3.2%)
7(2)
ラフォンテーヌの地元ながら微減
海賊党
0.7%(6.7%)
0(4)
5%を大きく割り議席を失う
緑の党
4.0%(1.0%)
0(2)
5%をわずかに割り議席を失う
FDP
3.3%(2.1%)
0(±0)
得票率は伸びたが5%に及ばず
AfD
6.2%(6.2%)
3(3)
同州で初の議席獲得
その他
2.6%(1.9%)

合計議席数
51議席(過半数は26議席)


  今回選挙の投票率は69.7%201261.6%)と高く、Welt紙は、現政権(CDU主導
 の大連立)の政策に不満はなく、赤赤連立に取って代わられるのをおそれた無党派層が
 CDUに投票し、現政権に批判的な無党派層がAfDに投票したと分析している。
  それを裏付けるデータが、選挙一週間前にザールラント州の有権者を対象にZDFが
 実施した調査の結果である。
  なお、党員数ではSPDがCDUを上回ったとの発表は、皮肉にも、固定票ではSPDに分
 があるが、無党派層の浮動票が流れてCDUが勝利したとの分析が正しかったことの裏付
 けになってしまった。

連立の形態
望ましい
望ましくない
CDU主導の大連立
46%
28%
SPD主導の大連立
41%
32%
赤赤連立
28%
57%
赤赤緑連立
23%
62%
CDU、緑の党、FDP連立
21%
56%
(Quelle:ZDF Politbarometer17.3.2017)

  ザールラント州の有権者は、選挙前と同じくCDU主導の大連立が一番、次にSPD主導の大連立(どちらも、望ましい>望ましくない)、ただし、針が左に振れるのは「ナイン ダンケ」(望ましい<望ましくない)との意識である
  針を左に振れさせて(=「アジェンダ2010」の修正を主張して)、旧SPD左派を呼び戻そうとするシュルツ氏にとって、ザールラント州の選挙結果は厳しい現実をつきつけられるものとなった。
  シュルツ候補が左を向けば向くほど、それを望まない無党派層はSPDが大きくなって左派党と連立を組むのをおそれてCDUに投票する。
  このような状況を、私はひそかにシュルツ効果((独)Schulz-Effekt)ならぬシュルツ・ジレンマ((独)Schulz-Dilemma)と呼んでいる。

(次回はシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙の結果をレポートします。)

ドイツ連邦議会選挙の行方(1)はこちらです。