2017年11月13日月曜日

国立新美術館「改組 新 第4回日展」


さわやかに晴れわたった文化の日。
六本木の国立新美術館で始まった「改組 新 第4回日展」に行ってきました。

今年は明治40年の第1回文展から数えて110回目の記念すべき年。
この日は開会初日ということではじめに開会式があったので、開場時間前から入口付近には関係者やプレスの人をはじめ多くの人でにぎわっていて、オープニングにふさわしい華やかな雰囲気に彩られていました。


開会式では、公益社団法人 日展の奥田小由女理事長がご挨拶の中で、応募作品が5部門合計で11,581点、そのうち入選作品が2,225点(役員他の無鑑査作品を含めて2,931点展示)とお話されていました。
日々、制作に励んでいる芸術家のみなさんがここにたどり着くまでの道のりはよほど険しいことを想像する一方で、ここに展示されている作品はどれもが素晴らしいものばかりではとの期待も膨らんできました。

開会式のあと会場に入り、とりあえず全体を見渡そうと思い会場内を歩いていきましたが、作品の数の多さ、そして質の高さに圧倒されました。
広い国立新美術館の1階から3階まで日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書の5部門、約3000点、行けども行けども質の高い作品ばかり、まるで芸術作品の森に迷い込んだような不思議な感覚になりました。

展覧会の内容がどれだけ素晴らしいかをお伝えしたいのですが、これだけ多くの作品をすべて紹介することはできませんので、各部門の会場の雰囲気をお伝えして、それぞれの部門ごとにあくまでも私の趣味ということで「私の一押し」を紹介してきたいと思います。

会期は12月10日(日)までです。会期中にさまざまなイベントもあります。
詳細は「日展ウェブサイト」をご参照ください。

https://nitten.or.jp/summary


はじめに日本画の会場です。

日本画の会場には、縦もので240cm×190cm以内または260cm×165cm以内という大きさの作品がずらりと並んでいて壮観です。
題材も日本画の世界では古くから描かれてきた日本の山や森や海、鳥や動物などの自然の景色をはじめ、街中のさりげない一コマ、日常の中の人たち、さらには海外の街並みや抽象絵画のような作品まで、バラエティに富んでいて、それぞれの作者の思いが伝わってきそうな作品ばかりです。









そういった中で「私の一押し」を決めるのは至難の業ですが、やはり一番気になった作品は佐々木淳一氏の《廃船》。

うらびれた漁港の片隅にはどこにでもありそうなありふれた廃船。
船底には海水がしみ込んでいて使い物にならないのに、なぜかカチッとした構図でかつて現役だったころの威厳を保っている。おそらく夕陽であろうか、海面は一面赤茶けた色に染まっているが、なぜか緑色や紫色も混ざっていて、手前の方は真珠のように輝く水玉模様に彩られている。そしてさらにミステリアスなのがこの廃船にとまろうとしてる鳩。この鳩は何を意味しているのだろうか?

短い時間の間にこんなことを考えさせてくれる作品です。




続いて同じ1階の工芸美術の会場へ。

こちらのコーナーには壁面には大画面の作品が並び、台の上には立体の作品がずらりと並んでいます。どれも素晴らし作品ばかりですが、驚いたのはその素材。
遠くで見ると油絵かと思ったものが、実は大きな七宝の作品だったり、染物だったり、パッチワークだったり。立体の作品も漆、ガラス、陶器、金属など多種多様。








こちらもこの1点となるととても難しかったですが、一番気になったのがこの作品。
清水素子氏の《ヴェネチィア幻想》(七宝)。
ベネチアはサンマルコ広場も、リアルト橋も、サンタマリア・デラ・サルーテ教会や小島に浮かぶサンジョルジョ・マッジョーレ教会も、運河やゴンドラもどれも絵になるのですが、この作品のように裏路地(裏運河?)も絵になります。もちろん題材がいいだけでなく、重厚な建物と淡い青の運河の水の対比、そして運河の水面の先と空との境界線があいまいで、この先、どこか遠くへ行ってしまうのではという不安と期待、そういたものを感じさせてくれる作品です。


続いて2階に移り洋画の会場です。
洋画の規定はF100号(長162.1cm・短130.3cm)以内と日本画より一まわり小振りなため、まるでヨーロッパの美術館のように作品が壁の上下2段にびっしり展示されています。

洋画も、日本の自然の風景や海外の街並み、さりげない日常の一コマ、物思いにふける人物、静物、そしてシュール風の作品などさまざまなジャンルの作品が並んでいます。




洋画のコーナーでも思案しましたが、「私の一押し」はこの作品。
中村末二氏の《暖日》。
重厚感あふれる土蔵とおぼしき壁、塗装は落ちていても金属の板で補強された頑丈な扉。
軒下にぶら下がるランプ、そして農薬を巻く機械(? 間違えていたらすみません)。すべてがここに何年も根を張っているかのようにどっしりとした存在感。
そして扉は空間と空間だけでなく、時間と時間を区切るもの。この扉がギ―ッと音を立てて開くとその先にはどういった世界が広がっているのか想像をかき立ててくれる、そういった作品でした。



次は同じく2階の彫刻会場。
このコーナーでは来場者が入らないように写真を撮るのに苦労しました。
なにしろこれだけ彫刻の数が多いと、カメラのファインダー越しには作品と来場者の区別がつきにくいからです(笑)。

こちらもモデルは老若男女、古今東西、さらに動物まで様々なテーマの作品が展示されていました。






ウルトラマンのポーズをとる少年、赤ん坊を抱く母親、何かを見つめるように佇む男性、古代ギリシャ風の衣をまとった女性、どれもが考えさせてくれる作品だったので、やはり「私の一押し」を決めるのには難儀しましたが、彫刻のコーナーではこの作品が気になる作品でした。
村井良樹氏の《刻の扉~追憶~》です。
顔を少し上に上げながら目を閉じて何かを思っている若い女性。
片方の胸を肌けてうっとりしたような表情をしているので、よかった時のことを思い浮かべているのだろうか。
しかし時間の流れを示す時計は文字盤は欠けてる。これはよき時代は二度と戻らないことを暗示しているのか。
考えさせてくれる作品です。

そして3階は書の会場。

小学生のとき書道を習っていたので5部門の中では唯一ゆかりのあるジャンルです。
とは言うものの、全く上達しなくて、他の人が上手に書いたのを見て、「どうしてこんなに上手に字が書けるのだろう」とうらやましく思ったことを思い出しながら拝見しました。本当にうらやましいです。





5部門の中で最も多い1,028点が展示されていて、タイトルを見ると万葉集や古今和歌集、をはじめとした日本の古典、中国・盛唐の詩人、杜甫、李白、北宋の詩人、蘇東坡の詩など有名な題材も多く、やはりここでも「私の一押し」を決めるのには苦労しました。
その中で私の気になった作品は、池堂正子氏の《おくのほそ道》。

10年ほど前に松尾芭蕉の歩いた道をたどりたくて「奥の細道」を和風綴のノートに筆ペンで書き写したのですが、思ったように上手に書けなかったので途中で放棄してしまいました。それでも「奥の細道」そのものが好き、というのと、ここまで上手に書けなくても少しでも近づきたいという思いがあったためか、この作品に心を惹かれました。




さて、駆け足で日展の様子を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。
とてもすべてをお伝えすることはできませんので、ぜひとも実際に六本木まで足を運んで、芸術作品の森を散策して、「私の一押し」を選んでいただければと思います。