2016年12月31日土曜日

AfDの台頭~ワイマール末期の再来か?~(3)

ベルリン市(都市州)では、市議会議員選挙が行われた9月18日以降の長い連立交渉の結果、州レベルで初めてSPD(社会民主党)主導の「赤赤緑連立政権」が成立し、12月9日にはミヒャエル・ミューラー氏(SPD)がベルリン市長に再任された(チューリンゲン州の「赤赤緑連立政権」は州議会第一党の左派党が主導)。

これで今年行われた5つの州で連立の枠組みが決まり、各州でAfDが多くの議席を獲得したが、既成政党が連立の枠組みを変えるなどして過半数を確保したため、結果的にどの州もトップの顔ぶれは変わらず、ポピュリズムに流されることにはならなかった。

 ①バーデン・ビュルテンベルク州  ヴィンフリート・クレッチマン首相(緑の党)再任
   緑の党とSPD(社会民主党)との連立 → 緑の党とCDU(キリスト教民主同盟)の連立

 ②ラインラント・プファルツ州  マル・ドライヤー首相(SPD)再任
   SPDと緑の党の連立 → SPD、緑の党、FDP(自由民主党)の連立

 ③ザクセン・アンハルト州  ライナー・ハーゼルホフ首相(CDU)再任
   CDUとSPDの連立  → CDU、SPD、緑の党の連立

 ④メクレンブルク・フォアポメルン州 エルビン・ゼレリング首相(SPD)再任
   SPDとCDUの連立で変わらず

 ⑤ベルリン市(ベルリン市は都市州) ミヒャエル・ミューラー市長(SPD)再任
   SDPとCDUの連立  → SPD、左派党、緑の党の連立
   

このようにポピュリズムの台頭に既成政党が団結して対抗するというメカニズムがうまく機能した結果となったが、19日のベルリンでのテロ以降、AfDが勢いづいているので、これから先はどうなるかわからない。

AfDも、今では反移民政策を掲げ「右派大衆政党」とのレッテルを貼られているが、2013年4月に設立された当初はEU統合に反対するインテリ集団というイメージがあった。
しかしながら、2014年には早くも党内のリベラル派と右派の権力闘争が表面化し、2015年7月に行われた党大会では、設立時の共同代表の一人でリベラル派のベルント・ルッケが党を去り、同じく共同代表の一人で右派のフラウケ・ペトリが党の代表に就任して現在に至っている。

来年は連邦議会選挙が実施される。
メルケル首相率いるCDUの姉妹政党CSU(キリスト教社会同盟)のゼーホーファー党首は「移民政策、治安政策を考え直さなくてはならない」と発言し、CDUだけでなく、他の既成政党に波紋を投げかけている。

既成政党は移民受け入れ寛容な政策を修正するのだろうか。ベルリンで成立したSPD主導の「赤赤緑」連立は連邦レベルでの連立の試金石となるのだろうか。AfDはこのままの勢いで選挙に突入するのだろうか。これからもドイツから目を離せない。

(「AfDの台頭~ワイマール末期の再来か?~」の稿終了)

「ドイツ~東と西~」の読者のみなさま、今年一年おつきあいいただきありがとうございました。
これからもドイツ関連の記事をはじめ、気に入った美術展なども紹介していきたいと考えていますので、来年もよろしくお願いいたします。
それでは、みなさまよいお年を。

ベルリン・ブランデンブルク門





2016年12月5日月曜日

損保ジャパン日本興亜美術館「風景との対話」ブロガー内覧会

12月1日(木)、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「風景との対話 コレクションが誘う場所」のブロガー内覧会に参加してきました。


とてもいい雰囲気の展示室


パリの風景、日本の風景、異国の風景、日常の風景、さらにシュールな心象風景、会場いっぱいにさまざまな風景が広がっていて、私たちを小さな旅へと誘ってくれます。

展示室内は、今回の展覧会を担当された主任学芸員の中島啓子さんにご案内いただきました。

「当館では毎年1回コレクション展を開催していて、今回のテーマは『風景』。今までのテーマではあまり展示する機会のなかった”秘蔵”の作品も多く展示されています。」と中島さん。

次にいつお目にかかれるかわからない作品が展示されているとなると見逃すわけにはいきませんね。

第1章 フランスのエスプリ

入口を入ってすぐの部屋に展示されているのはフランスの画家たちの作品。

「第1章は主にパリを中心に活躍した画家の作品です。ユトリロを除いて1960年代の画家たちの作品で、戦前のパリの良さを描いています。戦時中のナチス占領からの解放感からどの作品も温かい色を使っています。」





第2章 東郷青児の旅

第2章は、損保ジャパン日本興亜美術館の所蔵作品の中心をなす東郷青児のコーナー。

「東郷青児は、欧州や南米を旅行して多くの旅のスケッチを残しています。映画「ローマの休日」で有名になったローマの「スペイン広場」も描いています。確立したスタイルを変えようとした意欲作「古城」もぜひご覧になってください。」





第3章 日本の風土

こちらのコーナーにはポスト印象派に傾倒した岸田劉生や有島生馬、そして東山魁夷をはじめとした日本画も展示されていて、さまざまな日本の風景が広がっています。






第4章 異国の魅力

第4章は私の一番のお気に入りのコーナー。
中でもよかったのが後藤よ志子「白夜の街Ⅰ」(下の写真正面)。今回の展覧会の私の一押しです。
作者は中国の青島出身とおうかがいしたので、映画「恋の風景」で見た青島の古い街並みを描いているのでは、と錯覚してしまいました。





第5章 意識の底の地

シュールレアリズムの作品もあります。
私の二番目のおススメは矢元政行「極楽塔」(一番右の作品)。いったい何人の子どもたちが描かれているのでしょうか。



第6章 日常の向こう側

「このコーナーは他のどこにも属さない”余った人たち”のコーナーです(笑)。」と中島さん。
「でも私はここがお気に入りのコーナーで、このコーナーを作っているときに展覧会のタイトル『風景との対話』が頭の中に思い浮かんできました。たとえばキッチンで鍋を見ると、笠井さんの作品「二つの卓上生物」(下の写真左)を思い浮かべるとか、日常の中によみがえる記憶との対話ができる作品を展示しています。」



第7章 世界の感触

「このコーナーも余った人たちの作品ですが、第6章の作品とは合わない作品が展示されています。」と中島さん。
「その違いは作家の生きた世代がもっているテーマだと思います。1960年代に学生運動を経験して、一度カンバスを放棄した人たちが絵を描くことにもどってきて、平面に何を表現するか考えた人たちや、現在、20歳代から30歳代の人たちが自分自身の手作業で表現していく作品だったりします。」
「不確かな風景」(櫃田伸也)の前で解説する中島さん

「WALL(宮里紘規 下の写真右)は過去に開催された美術展のパンフレットを細く切って貼ったものです。パンフレットは古くなると退色してしまうので、保存には困る作品です(笑)。」



第8章 思い出のニューヨーク州

第8章はグランマ・モーゼスのほのぼのとした風景の作品が展示されています。



東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「風景との対話 コレクションが誘う場所」は12月25日(日)まで開催されています。

広々とした空間に広がるさまざまな風景。作品一枚一枚それぞれ違った場所に旅をしているような、とても楽しい気分にさせてくれる展覧会です。おすすめです。

詳しくはこちらをご参照ください。
  ↓
損保ジャパン日本興亜美術館「風景との対話 コレクションが誘う場所」



(掲載した写真は美術館の特別の許可を得て撮影したものです。)






2016年11月13日日曜日

東京国立博物館・チームラボ新作発表@禅展・夜間特別内覧会

11月8日(火)、「チームラボ新作発表@禅展・夜間特別内覧」に参加してきました。

東京国立博物館で開催中の特別展「禅-心をかたちに-」(禅展)とのコラボで作品を展示しているチームラボ。今回は、禅展の後期展示が始まる11月8日から展示する新作「円相 無限相」の発表会でした。

一面に銀箔を貼り付けたような背景の上に黒い墨で円が描かれはじめ、さまざまな形に変化していきます。じっと見ていると、魚が飛び出してきて、すぐ消えたりするので目が離せません。





「『円相』をモチーフとして、空間に描く円をイメージしています」と説明するチームラボ代表の猪子寿之さん。


禅展のポスターをバックに、左から 東京国立博物館学芸研究部列品管理課長の救仁郷秀明さん、猪子さん、そして今回の新作発表会にゲストで来ていただいた世田谷にある龍雲寺の細川晋輔住職、恵比寿にある松泉寺の森昌寛住職(龍雲寺、松泉寺とも臨済宗妙心寺派のお寺です)。




細川住職は「先日、禅展を見終わってこの衣装で上野から山手線に乗った時、ハロウィンの仮装と間違われて周りの人たちに写真を撮られた」とユーモアたっぷりにごあいさつされた細川住職。

「今回の禅展は、禅の文化が一堂に並んだ画期的な展覧会です。」
「白隠の禅画は悩み苦しむ人たちに少しでも幸せになってほしいという思いを込めて描いているものです。ぜひ、禅画からメッセージを受け取ってほしい。」と熱く語られていました。

龍雲寺さんには10月21日におうかがいして、龍雲寺さんの所蔵する白隠の禅画をたくさん見させていただきました。どうもありがとうございました。

さて、禅展の方ですが、内容ももちろん、空間をたっぷり使って、展示も趣向を凝らしたレイアウトが何しろ素晴らしかったです。

入口を入ってすぐがポスターにもなっている白隠の「達磨像」(大分・萬壽寺蔵)のお出迎えを受けてすぐ横を曲がると、遠くに見える雪舟の国宝「慧可断臂図」(愛知・齊年寺蔵)。
こちらは「第1章 禅宗の成立」のコーナーです。

今回の禅展は、臨済禅師1150年遠諱と白隠禅師250年を記念して開催された展覧会です。
こちらは今回の主役の一人、臨済禅師の肖像画です。
左 「臨済義玄像」(京都・大徳寺蔵)、右 「達磨・臨済・徳山像」(京都養源院蔵)。

「第2章 臨済禅の導入と展開」では、建仁寺、東福寺はじめ臨済宗のお寺の寺宝がずらりと展示されています。


そして「第3章 戦国武将と近世の高僧」のコーナーの後半は、白隠の作品のオンパレードです。


上の写真では一番左、下の写真では右が、腕を切る前の「慧可断臂図」(大分・見星寺蔵)です。


「第4章 禅の仏たち」のコーナーの展示も渋いです。
中央は、円形に並んだ京都・鹿王院蔵の「十代弟子像」。十人のお弟子さんを間近に見ることができます。


「第5章 禅文化の広がり」では、私の好きな長谷川等伯の「竹林猿猴図屏風」(京都・相国寺蔵)も、教科書に出てくる国宝「瓢鮎図」(京都・退蔵院蔵)も、龍に向かって吠える虎の迫力がすごい狩野山楽の「龍虎図屏風」(京都・妙心寺蔵)も、さらにはエツコ&ジョー・プライス夫妻のご厚意で特別出品された伊藤若冲の「鷲図」と「旭日雄鶏図」も出展されています。

このゆったり感がいいですね。

狩野元信「四季花鳥図」(京都・大仙院蔵)


会場内には座禅コーナーもあります。
松泉寺の森住職が実際にここで座禅を組んで、座禅について説明されていました。



決して堅苦しくなく、気軽に禅文化の奥行きの深さを味わうことができる素晴らしい展覧会です。

11月27日(日)までです。お見逃しなく!

オフィシャルサイトはこちらです。

東京国立博物館 特別展「禅-心をかたちに-」


(禅展の会場内の写真は、東京国立博物館より特別に撮影の許可をいただいたものです。)

2016年10月25日火曜日

AfDの台頭~ワイマール末期の再来か?~(2)

ベルリンでもAfDが躍進して左派党や緑の党に肉薄する議席数を確保した。
一方、今まで大連立を組んでいたSPDとCDUはともに議席を減らし、合計で69議席となり過半数を割ってしまった。

そこで、浮上したのが赤(SPD)、赤(左派党)、緑(緑の党)の連立。
「赤赤緑」連立は、州レベルではチューリンゲン州で実績があり(2014年~)、「赤赤」であればベルリンでも2002年から2011年まで連立を組んでいたので、全く可能性がないわけではないが、選挙から1ヶ月以上が経過した今でも、各党の綱引きが続いている。

ベルリン市議会議員の選挙結果(投票日 9月18日)

  得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較)

  1. SPD                  21.6%(-6.7%)              38議席(-9)
  2. CDU      17.6%(-5.8%)              31議席(-8)
  3. 左派党               15.6%(+4.9%)              27議席(+8)
  4. 緑の党               15.2%(-2.4%)              27議席(-2)
  5. AfD             14.2%(+14.2)              25議席(+25)
  6. FDP               6.7%(+4.9%)              12議席(+12)    
                                                          合計 160議席(過半数 81議席)   

各党の幹部たちが他の党に牽制球を投げたりして、「赤赤緑」の連立交渉がうまくいかないのは、どうやら来年行われる連邦議会選挙後をにらんでいることが大きな要因のようである。
首都ベルリンでの連立は、連邦レベルでの「赤赤緑」連立の可能性を探る、いわば試金石と言ってもいいだろう。

「赤赤緑」の三党のうち連邦レベルでも連立を組んだことのあるSPDと緑の党の歩み寄りは難しくないと思われるが、NATOやEUよりロシアの方に顔を向けている左派党は、これら二党とは外交政策面での隔たりが大きく、連邦レベルでの連立は難しいと考えられていた。

実際、2013年の連邦議会選挙の結果、CDU/CSUとSPDの大連立が成立したが、数の上では過半数をとることができた「赤赤緑」の三党には、そもそも連立に向けた動きすらなかった。
もし、そのとき「赤赤緑」の連立政権が成立していたら、CDUのメルケル首相は、党としては選挙で躍進したにもかかわらず野党に転落するという信じられない事態になっていたところだった。

下の表は、私が参加しているある勉強会のために作成した1994年からの連邦議会選挙の結果をメルケル首相の動きを中心にまとめたものであるが、2013年の選挙結果を見ると、「赤赤緑」は320議席を獲得していて、過半数の316議席をわずかに超えている。

SPDや緑の党は外交政策での歩み寄りを左派党に投げかけているが、はたして左派党は妥協するのか。その行方は不透明だ。

外交面での方向転換を迫られている左派党ではあるが、旧東ベルリンではあいかわらず強い支持を得ている。
旧東ベルリン市民にとって、SPDやCDU、FDPは「西から来た党」であるが、左派党はいまだに「おらが党」として親しまれているのだろう。今回のベルリン市議会選挙で出た、あたかもベルリンの壁が存在するかのような興味深い投票結果を見るとついそう思ってしまう。


旧西ベルリン

  1. SPD      23.2%
  2. CDU     20.9%
  3. 緑の党     17.1%
  4. AfD           12.1%
  5. 左派党       10.1%
  6. FDP           8.6% 

旧東ベルリン


  1. 左派党    23.4%
  2. SPD         19.3%
  3. AfD           17.0%
  4. CDU         13.1%
  5. 緑の党      12.6%
  6. FDP           4.0%  


次回は、そもそもAfDとはどのような政党なのか見ていきたいと思います。

2016年9月28日水曜日

AfDの台頭~ワイマール末期の再来か?~(1)

AfD(Alternative für Deutschland 「ドイツのための選択」)の勢いが止まらない。

100円ショップで見つけたブランデンブルク門の置物

今年3月に実施されたバーデン・ビュルテンベルク州、ラインラント・プファルツ州、ザクセン・アンハルト州の州議会選挙で高い得票率を得たAfDは、9月に入って行われた2州の州議会選挙でもその勢いを維持し続けた。

9月4日には、メルケル首相の地元メクレンブルク・フォアポメルン州議会選挙で、メルケル首相率いるCDU(キリスト教民主同盟)を破り、第二党に躍り出た。
さらに首都ベルリン(ベルリンは都市州)では、9月18日に行われた議会選挙で、市議会で連立を組むSPD(社会民主党)、CDUともに得票率を減らし、連立与党の議席は過半数を割る一方、AfD
は14.2%の得票率を獲得した。

各州議会選挙の結果を見てみよう。

①バーデン・ビュルテンベルク州(投票日 3月13日)

 得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較) 
  1. 緑の党             30.3%(+6.1%)       47議席(+11)
  2. CDU                27.0%(-12.0%)               42議席(-18)
  3. AfD             15.1%(+15.1%)              23議席(+23)
  4. SPD                  12.7%(-10.4%)         19議席(-16)
  5. FDP(自由民主党) 8.3%(+3.0%)     12議席(+5)
                                                   合計 143議席(過半数 72議席)

 ここではAfDがSPDを抑えて第三党に躍り出た。 
 前回の2011年選挙が東日本大震災による福島の原発事故直後に行われたため、脱原発を掲げていた緑の党が躍進し、保守層が強く、CDUが長く政権を担っていた南部の同州において初めて緑の党が政権をとって周囲を驚かせた。
 今回もその好調さを維持し、緑の党は獲得議席を11議席増やしたが、もう一方の連立与党SPDが大幅に議席を減らし、合計議席数では過半数を割ってしまったため、政策的な開きが大きいCDUと連立を組むことになった。
 それぞれの政党のシンボルカラーが緑と黒なので、果物のキウイに例えてメディアでは「キウイ連立」と言われているが、今度は水と油のように反りの合わない政党の連立が周囲を驚かせている。

    
②ラインラント・プファルツ州(投票日 3月13日)

  得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較) 


  1. SPD        36.2%(+0.5%)     39議席(-3)
  2. CDU        31.8%(-3.4%)               35議席(-6)
  3. AfD              12.6%(+12.6%)            14議席(+14)
  4. FDP              6.2%(+2.0%)       7議席(+7)
  5. 緑の党      5.3%(-10.1%)      6議席(-12)

                                                            合計 101議席(過半数 51議席)
  
 バーデン・ビュルテンベルク州の北に接する同州では、緑の党が大幅に議席を減らし、AfDが第三党に躍進した。  
 同州では、CDUがリードしSPDが追いかける展開が続いていたが、1991年の選挙でSPDがCDUを逆転してからはSPDが第一党の座を守っていた。前回2011年の選挙ではSPDが得票率を減らして42議席、CDUが41議席とほぼ同数になったが、SPDは18議席の緑の党と連立を組み、かろうじて与党の座にとどまることができた。
 今回の選挙では、上記のとおり、連立相手の緑の党が得票率を大幅に減らし、両党では過半数を得られなくなったので、今回は5%条項(※)をクリアして議席を回復したFDPを加えて三党での連立となった。この連立は、それぞれの党のシンボルカラー、SPDの赤、FDPの黄、緑の党の緑をとって、メディアでは「信号連立」と呼ばれている。

(※)5%条項
 小党が乱立して政治の混乱を招いたワイマール共和国時代の経験から、第2投票数(=比例票数)の少なくとも5%を獲得せず、または少なくとも3つの選挙区で当選者を出さなければ比例代表制に基づく議席の配分を受けることができない。
 (ちなみに第1投票は小選挙区の立候補者に投じる票のこと) 


③ザクセン・アンハルト州(投票日 3月13日)

  得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較) 


  1. CDU          29.8%(-2.7%)     30議席(-11)
  2. AfD              24.3%(+24.3%)            25議席(+25)
  3. 左派党          16.3%(-7.4%)               16議席(-13)
  4. SPD               10.6%(-10.9%)       11議席(-15)
  5. 緑の党         5.2%(-1.9%)         5議席(-4)

                                                            合計  87議席(過半数 44議席)
   
 上記①②の州が旧西ドイツの州であったのに対して、ザクセン・アンハルト州は旧東ドイツの州。 
旧東ドイツの独裁政党SED(ドイツ社会主義統一党)の流れをくむ左派党は、ドイツ統一後、思ったほど生活レベルがよくならなかった市民の不満の受け皿となっていたが、今回の選挙結果を見る限り、近い将来、その役割をAfDに奪い取られてしまうかもしれない。
 今まで連立を組んでいたCDUとSPDはいずれも得票率を落とし、両党だけでは過半数の議席を獲得できなかったため、緑の党を加えて三党で連立を組んだ。
 現在の連邦議会のようにCDUとSPDの二大政党が連立を組むと、「大連立」と呼ばれるが、それに緑の党が加わると何と呼ばれるのだろうか。

④メクレンブルク・フォアポメルン州(投票日 9月4日)

  得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較)

  1. SPD         30.6%(-5.0%)     26議席(-1)
  2. AfD               20.8%(+20.8%)           18議席(+18)
  3. CDU             19.0%(-4.0%)              16議席(-2)
  4. 左派党          13.2%(-5.2%)       11議席(-3) 
                                             合計  71議席(過半数 36議席)

 メクレンブルク・フォアポメルン州もザクセン・アンハルト州と同じく旧東ドイツの州。
 ここでも既存の政党が軒並み得票率を下げ、緑の党に至っては得票率が4.8%に下がり議席を失う中、AfDは大きな成功を収め、第二党に躍り出ている。
 高い得票数を獲得したとはいえ、旧西ドイツの二つの州では第三党のAfDが、旧東ドイツの二つの州ではいきなり第二党に躍り出たことは、ドイツ統一後、SEDという庇護者を失い、ぽっかりと大きな穴のあいた旧東ドイツ市民の心の中にうまく入り込んだということだろうか。なお、極右政党のNPD(ドイツ国家民主党)は市民の支持を失い、得票率が6.0%から3.0%に下がり議席を失った。
 同州では、SPDとCDUが「大連立」を組んでいたが、今回も両党の議席数は合計で過半数を越えるので、この枠組みは次の4年間も続くのではないか。

こうやって各州の連立の枠組みを見てみると、ただ単に数合わせをして過半数を獲得しているだけではないか、と見えてしまうが、実はそうではない。

ワイマール期には小党が乱立して政治の混乱を招いたことはすでにふれたが、ワイマール期の有力な政党であった社会民主党、共産党、中央党といった政党がお互いに対立して政治の混乱を招き、それが結果的にナチスの台頭を許してしまったという苦い経験が大きな教訓になっている。

だからこそ既存の各政党は、AfDのような右派大衆政党が台頭してくると、小異を捨ててとにかく大同団結してその肥大化を避けようという行動に出る。
このメカニズムが、5%条項と並んで、ナチズムの再来を防ぐ大きな防波堤となっている。

さて、次回は現在でもあたかも壁が存在するかのような選挙結果が出たベルリンの議会選挙について見ていくこととしたい。

(次回に続く)
 

2016年8月28日日曜日

チームラボin大分

先月のことになりますが、大分市美術館で開催中の

 チームラボ★アイランド
 踊る!美術館と
 学ぶ!未来の遊園地

に行ってきました。

今回のおすすめはなんといってもこれ。その名も「百年海図巻 アニメーションのジオラマ」。






まるで俵屋宗達作「松島図屏風(アメリカ・フリーア美術館蔵)」のような島が海の上に浮かんで、そして流され、最後には金屏風の画面全体が海になるという、ものすごい迫力のある大画面。
上映時間はなんと100年!
説明書きによると、1世紀後の海面の上昇をイメージしているとのことです。

この作品以外にも、昨年、東京・お台場の「日本科学未来館」で開催された同じ展覧会には出品されていなかった作品も展示されていました。
会場には入ってすぐにお出迎えしてくれる「憑依する滝」。



外はものすごい暑さだったので、涼しげな風が吹いてきそうでホッとします。

続いて「花と人、コントロールできないけれども、共に生きる-A Whole Year per Hour」。
こちらはお台場でもありましたが、こんなに色とりどりの花があったのだとあらためて驚きました。



そして、会場の広さの制約か、少し小振りになった動く伊藤若冲「世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う」。小さくても鳥や動物の動きが楽しませてくれます。




「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点-Light in Dark」
こちらもお台場にありましたが、音楽の盛り上がりとダイナミックな動きの映像のコラボは、何回見ても感動的です。


以上が「踊る!美術館」のパート。

続いて「学ぶ!未来の遊園地」 のパートも健在です。
こちらは「お絵かき水族館」。
子どもたちめいめいが描いた塗り絵のイカや海亀、魚がスクリーンの上を、まるで水族館の水槽の中のように泳いでいます。
夏休み期間中ということもあって、親子連れで大にぎわいでした。



こちらは「つくる!僕の天才ケンケンパ」。
子どもが画面の石の上を歩くと、石がシャボンのようにはじけます。
こちらも子どもたちに人気でした。


「チームラボ★アイランド 踊る!美術館と 学ぶ!未来の遊園地」は大分市美術館で9月25日(日)まで開催しています。
まだ1ヶ月近くあります。
温泉旅行などで大分方面に行かれる方、ぜひ立ち寄ってみてください。


大分市美術館の公式サイトはこちらです。

大分市美術館

チームラボの作品紹介はこちらです。

展覧会公式ホームページ










2016年7月15日金曜日

DMM.PLANETS Art by teamLab内覧会


7月16日(土)からお台場で開催されるDMM.プラネッツ art by teamLabの内覧会に参加してきました。


はじめに主催者あいさつ。
左がDMM.com代表取締役の松栄氏、右がチームラボ代表の猪子氏。



会場内にはひざ下まで水に浸かる部屋があるので、入口で靴と靴下を脱いでズボンをひざ下までたくし上げてから会場内に入ります。
中に入ってすぐに迎えてくれるのは、床一面に布団のような、枕のようなものが敷かれた不思議な空間。足をとられてなかなか前に進めません。
この部屋は”やわらかいブラックホール-あなたの身体は空間であり、空間は他者の身体である”。


続いて電球の柱が天井から降り注ぐ部屋。
この部屋は”Wander through the Crystal Universe”。
QRコードをスマホで読み取って星のパターンを選んで送信すると、自分の好きな光のシンフォニーを奏でてくれます。見るだけでなく、自分でも作品を作れてしまうところがうれしいですね。






猪子さんは会場内でも、丁寧に解説をしてくださいました。

「体でアートを感じ取ってください」
「この会場は3,300㎡の迷路です。作品の中をさまよってください。道を失ってください。ついでに自分も失ってください。」
と、いつものユニークなトーク。

「写真撮らせてください」とお声かけしたら、気さくにポーズをとってくれた猪子さん。



ここがひざ下まで水に浸かる部屋。水の上に写る光のアートです。
この部屋は”人と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング-Infinity”。



その名のとおり、池の中にはたくさんの錦鯉が泳いでいて、足元まで近づいてきます。


そして最後の部屋がプラネタリウム。
この部屋は”Floating in the Falling Universe of Flowers”。
ここも不思議な空間です。プラネタリウムなのに空を舞うのは色とりどりの花。寝そべって見るためのソファーもあります。

寝そべって上を見上げてみると・・・
まばゆいばかりに星、でなく花が輝くきれいな夜空です。

お台場に出現した巨大なアート空間。
理屈ぬきで楽しめます。

会期は7月16日(土)から8月31日(水)まで。
夏休みはお台場で決まりです!

詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
  ↓
http://exhibition.team-lab.net/dmmplanets2016/

2016年7月5日火曜日

メアリー・カサット展夜間特別鑑賞会 in 横浜美術館

横浜美術館で開催中のメアリー・カサット展。
先週の土曜日に夜間特別鑑賞会に参加してきました。

はじめに担当学芸員・沼田さんのギャラリー・トーク。
会場を回りながら、展覧会への思いのこもったお話しをおうかがいしました。

「メアリー・カサットは印象派を代表する女性画家。それでも国内に所蔵作品が少ないので、あまり日本になじみがなく、今回は国内では35年ぶり2回目の回顧展です。」

以下、沼田さんの解説に沿って作品を紹介していきます。

展覧会は次の3章構成になっていて、初期の作品から晩年の作品までカサットの生涯をたどることができます。

第1章 画家としての出発
第2章 印象派との出会い
第3章 新しい表現、新しい女性

まずは第1章。
入口すぐでお出迎えしてくれるのは、カサットの初期の作品「バルコニーにて」(1873年 フィラデルフィア美術館)。
これはカサットがスペイン滞在中に魅了されたスペインの画家ムリーリョへの傾倒が見られる作品。初期にはこういった力強い作品を描いていたのだと、ひたすら感心して見ていました。


こちらは1875年にパリにアトリエを構えてから肖像画の注文が多くなってきた時期の作品。
左から2番目が「刺繍するメアリー・エリソン」(1877年 フィラデルフィア美術館)。

「この作品は、肖像画に刺繍という風俗画の要素を取り入れた実験的な要素が入っている作品です。」
この頃から決まりごとの多いアカデミズムに嫌気がさしてきたそうです。


「刺繍するメアリー・エリソン」の左が「若い娘の頭部」(1874年頃 ボストン美術館)、その右が「赤い帽子の女性」(1874/75年 ジェラルド&キャサリン・ピータース夫婦協力)。 


第2章「印象派との出会い」

サロン(官展)に疑問をもったカサットが街を歩いていて偶然出会ったのが店のショーウインドーに飾られていたドガの作品。
その時の衝撃を彼女は次のように述べています。


この展覧会は壁にも注目です。

「印象派の画家は、モネのように主に風景を描く風景画家と、ドガのように主に人物を描く人物画家に大きく分かれます。」
「カサットはドガの影響を受けたので、身の回りの女性や子供に興味があって、人物をよく描きました。」

「作品№7(下の写真の右の作品)は、背景の海は少しで、砂遊びに夢中になっている二人の愛らしい女の子が大きく描かれています。二人の女の子は、亡くなった2歳上の姉リディアと自分を重ね合わせているとも言われています。」

写真左「庭の子どもたち(乳母)」(1878年 ヒューストン美術館)、右「浜辺で遊ぶ子どもたち」(1884年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー)





「作品№13(下の写真右)は、今回の展覧会のパンフレットになった『桟敷席にて』です。
作品№14(下の写真左)のように胸の開いたイブニングドレスでなく、当時の流行色だった黒い昼の外出着を着て、オペラグラスでおそらく舞台を見ているところを描いています。これは、当時は見られる対象であった女性が、私は見られるためでなく、お芝居を見に来た、ということを画家として宣言したチャレンジングな作品と言えます。」

写真左「扇を持つ婦人(アン・シャーロット・ガイヤール)」(1880年 個人蔵)、右「桟敷席にて」(1878年 ボストン美術館)





カサットが大きな影響を受けたドガの作品も展示されています。

左「踊りの稽古場にて」(1884年頃 ポーラ美術館)、右「踊りの稽古場にて」(1895-98年頃 石橋財団ブリジストン美術館)



「こちらのコーナーはカサットの家族を描いた作品が並んでいます。これらの作品はアメリカの異なった美術館に所属されているので、久しぶりに家族が大集合です。みなさんきっと喜んでいることでしょう。」

左から、「青い夜会服を着てタペストリー・フレームの前に座るアレクサンダー・J・カサット夫人」(1888年 アデルソン・ギャラリー協力)、「アレクサンダー・J・カサット」(1880年頃 デトロイト美術館)、「ロバート・S・カサット夫人、画家の母」(1889年頃 デ・ヤング、サンフランシスコ美術館)、「タペストリー・フレームに向かうリディア」(1881年頃 フリント・インスティチュート・オブ・アーツ)
(メアリー・カサットは5人兄弟の4番目で、アレクサンダーは長男です)
 

「この作品はのちに母子像を多く描いたカサットの最初期のものです。子どもをあやすお母さんの右手に注目してください。全体が淡い色調の中、スポンジに水を浸している右手だけがはっきりと描かれていて、働くお母さんの手にフォーカスを当てています。」

「眠たい子どもを沐浴させる母親」(1880年 ロサンゼルス郡立美術館) 




第3章に入ります。

「1890年4月にエコール・デ・ボザール(国立美術学校)で開催された日本版画展で浮世絵版画に感銘を受けたカサットは、女性たちの日常生活を描いた多色刷り銅版画のシリーズを制作しました。」

こちらは壁に書かれた同時代の女性画家ベルト・モリゾへの手紙の一部で、カサットの感動ぶりがよくわかります。


「カサットの銅版画が10点勢ぞろいするのはとても珍しいことです。ぜひご覧になってください。」


左から「湯あみ(たらい)」「ランプ」「オムニビュスにて」「手紙」「仮縫い」(いずれも1890-1891年 アメリカ議会図書館)

左から「沐浴する女性」「母のキス」「母の愛撫」「午後のお茶会」「髪結い」(いずれも1890-1891年 「沐浴する女性」と「「午後のお茶会」はブリンマー・カレッジ、その他はアメリカ議会図書館)



「1890年代はカサットにとって円熟期でした。浮世絵への傾倒と並行して、シカゴ万国博覧会の女性館の壁画を制作する大プロジェクトに係わりました。」

「その壁画は現在では失われてしまったのですが、「果実をとろうとする子どもたち」(作品№74)などの作品に壁画に描かれたテーマが描かれています。」

日本やドイツなら第二次大戦中の空襲で建物が破壊されることもあったでしょうが、なぜアメリカで壁画が残されていないのか疑問に思い、ギャラリー・トークのあとで沼田さんにおうかがいしました。

「壁画は万博のあと取り外されて、所在不明になってしまいました。焼失したといった話がないので、いつか発見されるかもしれません。ぜひ見てみたいですね。」と丁寧に教えていただきました。



「晩年はパステル画の母子像を多く描いています。カサットは、『パステルは子どもや女性の肌を描くのにふさわし画材』と言っています。」

左から「団扇を持つバラ色の服の女」(1889年頃 東京富士美術館)、「犬を抱くラズベリー色の服の女性」(1901年頃 ハーシュホーン美術館)、「マリー=ルイーズ・デュラン=リュエルの肖像」(1911年 公益財団法人吉野石膏美術振興財団(山形美術館に寄託))、一番右は油彩の「赤い胴着の女性と赤ん坊」(1901年頃 ブルックリン美術館)

こちらは油絵ですが、カサットはルネサンス期にフィレンツェで流行したトンド(円形画)形式にもこだわりました。
左「母親とふたりの子ども」(1905年頃 ウエストモアランド・アメリカ美術館)、右「温室にいる子どもと母親」(1906年 ニューオーリンズ美術館)


「この作品は特におススメです。子どもの肌のぬくもり、体の重みが伝わってくるような作品です。」

「母の愛撫」(1896年頃 フィラデルフィア美術館)


そして、最後に私のおススメの一枚。
「家族」(1893年 クライスラー美術館)

ラファエロやボッティチェッリのようで、印象派風のよう。まるでルネッサンスと印象派が融合したような聖母子像です。とても神々しく感じられて、しばらく見入ってしまいました。


カサットは生涯独身で通しました。でもなぜ母子像にこだわったのか。
沼田さんは「アーティストとして女性の役割に着目したからでは」とおっしゃっていました。

この展覧会はカサットのアーティストとしての誇りに満ちた言葉で締めくくられています。



地元の横浜でこんな素晴らしい展覧会が開催されるなんてうれしい限りです。
この機会にぜひとも横浜にお越しになってください。


会期 2016年6月25日(土)~9月11日(日)
会場 横浜美術館

詳細は横浜美術館の公式サイトをご覧ください。



※会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。