2017年2月26日日曜日

泉屋博古館分館「屏風にあそぶ春のしつらえ-茶道具とおもてなしのうつわ」ブロガー内覧会

2月22日(水)、泉屋博古館「屏風にあそぶ春のしつらえ-茶道具とおもてなしのうつわ」ブロガー内覧会に参加してきました。


展示室Ⅰ《二条城行幸図屏風》(左)、《誰ヶ袖図屏風》(右)
はじめに泉屋博古館分館の野地分館長から、歓迎のご挨拶に始まり、分館でのこれからの特別展のご案内がありました。

野地分館長(右)と学芸員の森下さん(左)

○ 2月25日(土)に始まって5月7日(日)まで開催されるのが今回紹介する「屏風にあそぶ春のしつらえ-茶道具とおもてなしのうつわ」。

○ 6月1日(木)~8月4日(金)は、兵庫県西宮市にある黒川古文化研究所の名刀コレクションを展示する「名刀礼賛-もののふ達の美学」。愛刀家には見逃せない企画です。
(上の写真で森下さんが手に持っているのがこの展覧会のパンフレットです。)

○ 9月9日(土)~10月13日(金)は、日本洋画壇の先覚者・浅井忠が教授を務めた京都高等工芸学校(現 京都工芸繊維大学)とのタイアップ企画「浅井忠の京都遺産ー京都工芸繊維大学 美術工芸コレクション」。

○ 11月3日(金・祝)~12月10日(日)は、泉屋博古館だけでなく東京国立博物館、京都国立博物館、大阪市立美術館所蔵の明末清初の中国名画を展示する「典雅と奇想-明末清初の中国名画展」。

どれも興味深い特別展ですが、中国絵画ファンの私としては、11月3日から始まる中国名画展は見逃せない展覧会です。

展示会場は展示室Ⅰと展示室Ⅱに分かれていて、展示室Ⅰは森下さんにご案内していただきました。

展示室Ⅰ 《扇面散・農村風俗図屏風》

入ってすぐ左に展示されている屏風が《扇面散・農村風俗図屏風》。
桜の花が咲く農村の風景。
森下さん「春の風物詩として定着してる花見ですが、昔は田植えの時期を神様が桜の花を咲かせて知らせてくれたと考えられていました。」

展示室Ⅰの右側には江戸前期流行のファッションの着物が描かれた《誰ヶ袖図屏風》と、今回注目の作品《二条城行幸図屏風》が展示されています。
時の将軍・徳川家光と父・秀忠の招きに応じて後水尾天皇と中宮和子の一行が二条城に行幸する様子を描いた《二条城行幸図屏風》には、一行の行列と見物人を合わせてなんと3,226人もの人物が描き込まれているとのことです。
一人ひとりのしぐさや表情がそれぞれ特徴があって、いくら眺めても飽きることのない素晴らしい屏風です。

上段は後水尾天皇と中宮和子の一行が堀川通りを二条城に向かう様子で、下段が将軍・家光の一行が天皇を奉迎するために中立売通りを御所に向かう様子が描かれています。
上段の行列の後方、鳳凰の飾りが付いているのが後水尾天皇が乗っている輿、中ほどの中宮和子の乗っている牛車は牛2頭立て、下段の行列の中ほどのやや後方、将軍・家光が乗っている牛車も牛2頭立てなので、みなさんもぜひ探してみてください。

この屏風は、江戸時代にはすでに住友家が所蔵していたのですが、天皇家と徳川家が描かれていたため、おそれ多くて飾ることができなかったそうです。そのおかげでとても保存状態がいいのです、と森下さん。

展示室Ⅰには《二条城行幸図屏風》が描かれた寛永年間にちなんだ茶道具が展示されています。


続いて展示室Ⅱへ。
こちらでは野地分館長の解説をおうかがいしました。

展示室Ⅱ

野地館長のお話
○ 今回は新収蔵品もまじえて、春にちなんだ作品を展示しています。
○ 正面の《桜図》は、上野の寛永寺が戊辰戦争で焼ける前、境内に咲いていた桜を描い
 たもので、作者の菊池容斎は幕臣で、38歳から本格的に絵を描きはじめた人です。
○ 菊池容斎は学者肌の人で、人体デッサンを初めて行ったり、狩野派や四条派など当時
 の作風を取り入れて、自分風の作風を確立した人です。
○ この作品は1年半ほど前に住友家の倉庫から発見されたもので、今回が初公開です。

菊池容斎《桜図》(左)、香田勝太 春秋草花図のうち《春》(左)
○ 《桜図》の左の屏風《春》は一見すると日本画ですが、実は油絵。近くで見ると絵の具
 の重なり具合がよくわかります。


畳が敷かれた茶室風のしつらえがとてもいい雰囲気です。
○ 右端の釜は《鳳凰模様日の丸釜》。よく見ると鳳凰が浮かび上がって見えます。

二代目川甚兵衛《猟犬図額》(左)、クロード・モネ《モンソー公園》(中)、《サン=シメオン農場の道》(右)

○ 《猟犬図額》は油絵のようですが、実は織物です。
○ モネの作品は、印象派になりきる前のバルビゾン風の作品《サン=シメオン農場の 
 道》と点描を使った印象派の作品《モンソー公園》の対比を楽しむことができます。

展示室内は春らしくてとても華やかな雰囲気でいっぱいです。
この春おすすめの展覧会です。

分館長の野地さんや学芸員の森下さんのお話は興味深く、とても参考になりました。
ご興味のある方は、ギャラリートークの日程に合わせてご覧になってはいかがでしょうか。

展示作品やギャラリートークの詳細は泉屋博古館の公式サイトをご覧ください。
  ↓
「屏風にあそぶ春のしつらえ」

※掲載した写真は美術館より特別に撮影の許可をいただいたものです。





2017年2月12日日曜日

青い日記帳×オルセーのナビ派展ブロガー特別内覧会

2月9日(木)に開催された「青い日記帳×オルセーのナビ派展ブロガー特別内覧会」に行ってきました。

「オルセーのナビ派展」は、現在、三菱一号館美術館で開催中の展覧会で、キャッチコピー「はじめまして、ナビ派です。」のとおり、日本で初めて開催される本格的なナビ派展です。

入口から第一室に入ると、ナビ派の画家たちに影響を与えたゴーガンの作品がお出迎え。
左から、ゴーガン「《黄色いキリスト》のある自画像」、「扇のある静物」、そしてベルナールの「炉器瓶とりんご」。



この展覧会は6章構成になっていて、第一章は「ゴーガンの革命」です。
このコーナーにはゴーガンと、ブルターニュ地方のポン=タヴェンでゴーガンの影響を受けたベルナール、セリュジエの作品が展示されています。

ゴーガンはセリュジエにこう言いました。

「これらの木々がどのように見えるかね?これらは黄色だね。では、黄色で塗りたまえ。これらの影はむしろ青い。ここは純粋なウルトラマリンで塗りたまえ。これらの葉は赤い?それならヴァーミリオンで塗りたまえ。」
(会場では、壁に掛けられたアクリル板にこの言葉が書かれています。)

このようなゴーガンの助言を受けてできた作品がセリュジエ「タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川」でした。


三菱一号館美術館に来ていつも思うことですが、展示室内の内装がとても素晴らしいです。暖炉の上の絵画を見ていると、美術館というより、まるで洋館の応接間で作品を鑑賞しているようなとても心地よい気分にさせてくれます。

第二章は「庭の女性たち」です。
このコーナーには庭の女性たちを好んで描いたドニやボナールの作品が展示されています。

重厚なドアを開けて居間に入ると、大きな絵が視界に入ってくる。
こういったくつろいだシチュエーションがたまらなくいいです。
作品はドニ「ミューズたち」です。

第三章は「親密さの詩情」です。
このコーナーには、ボナール、ヴァロットン、ヴュイヤールの室内情景を描いた作品が展示されています。

さてここで三菱一号館美術館の高橋館長と今回のブロガー特別内覧会のモデレーターTakさんの楽しいトークをおうかがいすることができました。

Takさんはこのたび『カフェのある美術館』(世界文化社)を出版されたので、そのことも紹介されていました。
左がTakさん、右が高橋館長
1986年に開館したパリ・オルセー美術館に1984年の準備室時代から係わっていた高橋館長。その当時のお話から始まりました。

「オルセー美術館は当時『印象派美術館』と呼ばれていたほど印象派が中心の美術館で、ナビ派で知られていたのはボナールくらいで、他の画家はほとんど知られていませんでした。オルセー美術館開館当時、ナビ派の作品は暗がりに置かれていました(笑)。ナビ派は今ようやく再評価の途上にあると言えるでしょう。」
「現在のオルセー美術館のギ・コジュヴァル館長は、もともとナビ派を研究している方でした。私もナビ派との付き合いは長く、1980年に国立西洋美術館に入って、ドニ展(1981年)を開催したのですが、そのときドニ家の人たちが来られて親交を温めました。」
「ギ・コジュヴァル館長は今年3月にオルセー美術館の館長を退任されるので、今回の展覧会はオルセーでの最後の仕事です。4月からはナビ派センターに行かれることが決まっていますが(笑)。今回の展覧会の開催にあたって、ギ・コジュヴァル館長には作品の選定からかかわっていただきました。そのため出展作品はどれもトップレベル、トップクラスのものばかりです。」
「ナビ派は二次元の絵の中に三次元のイリュージョンを描かずに平面的なものを描きました。その点で浮世絵になじんでいる日本人に合っているのかもしれません。それに西洋では隠ぺいされていた『やさしさ』『かわいさ』が前面に出ているのもナビ派の特徴です。これは対象を見る目線が低いところにあるということです。」

「一方で現代的な側面もあって、表面の『かわいさ』の裏にある不条理やボナールの作品に潜む『影』も見逃すことはできません。」
こう説明されてから、高橋館長は後ろに展示されているヴァロットンの「髪を整える女性」の不自然に曲がる椅子の脚、ありえないところにある影、ボナールやヴュイヤールの作品に潜む影の部分について解説されました。

左からヴァロットンの「髪を整える女性」「室内、戸棚を探る青い服の女性」「化粧台の前のミシア」。

第四章は「心のうちの言葉」です。
このコーナーには、ナビ派独特の色使いの肖像画や自画像が展示されています。
左からヴュイヤール「八角形の自画像」、「読書する男性」、ドニ「18歳の画家の肖像」。ここでも暖炉がいい雰囲気を出しています。



第五章は「子ども時代」です。
このコーナーには、ナビ派の画家たちの、子どもたちに対する慈しみに満ちた作品が展示されています。もちろん、子どもに忍び寄る影も見逃すことはできません。

ドアの横にさりげなく飾られるヴァロットンの「ボール」
こちらは高橋館長おすすめのヴュイヤール「公園」。
ナビ派のパトロンであったナタンソン家の応接間兼食堂の装飾画として制作されたもので、当初あった9枚のうち5枚がオルセー美術館に所蔵されています。



第六章は「裏側の世界」です。
このコーナーには、ナビ派が表現しようとした内的生活や夢や想像の世界を描いた作品が展示されています。
写真は、ロシアの近代美術コレクター、イヴァン・モロゾフの私邸の装飾壁画のためのドニの習作「プシュケの物語」。

高橋館長が言われていたように、本当に作品の質が高くて、とても見応えのある素晴らしい内容です。この春おすすめの展覧会です。
5月21日(日)までです。お見逃しなく。

詳細は展覧会の公式サイトをご覧ください。
 ↓
オルセーのナビ派展

※掲載した写真は、主催者の許可を得て特別に撮影したものです。