2017年9月3日日曜日

山種美術館「企画展 上村松園 ー美人画の精華ー」

山種美術館で開催中の「企画展 上村松園 -美人画の精華ー」に行ってきました。

今回の展覧会は、上村松園の作品を中心に、近代日本画家の美人画や江戸後期の浮世絵、さらには現代の画家の女性を描いた作品まで、よりすぐりの美人画を見ることができる素晴らしい展覧会です。
描かれた女性たちの表情もしぐさも髪型も、着物も柄も、小道具も背景も優しげで、とても心地の良い美人画ワールドにひたることができました。

会期は、前期が9月24日(日)まで、後期は9月26日(火)から10月22日(日)までです。
前期と後期で展示替えがあります。

展覧会の詳細はこちらをご覧ください。
http://www.yamatane-museum.jp/

※掲載した写真は、山種美術館の許可を得て撮影したものです。


それでは先日参加した特別内覧会の進行に沿って展覧会の様子をご紹介したいと思います。

はじめに山種美術館の山﨑妙子館長からご挨拶がありました。

〇 上村松園は、生涯にわたりさまざまな女性像を描きました。今回は山種美術館の松園
 コレクション18点すべてをお見せします。
〇 他にも鈴木春信や喜多川歌麿の江戸時代の女性、明治に入ってからの鏑木清方や伊東
 深水の清楚な女性、さらには小倉遊亀や片岡球子の凛とした女性などさまざまな女性像
 を見ることができます。
〇 また、月岡芳年《風俗三十二相》も展示しています。お貸しいただいた所有者の方に
 感謝申し上げます。
〇 今回の展覧会で撮影可能な一点は上村松園《砧》です。


上村松園《砧》(山種美術館)


〇 Cafe椿では、出品作から5点をイメージして和菓子をご用意しています。
  

左上から時計回りに、《よみびと》《双鶴》
《初ほたる》《舞妓》《道成寺》。
私の一押しは淡雪羹が口の中でとろける《双鶴》ですが、
他の和菓子も美味しくてどれにしようか迷ってしまいます。

〇 ショップでは、小冊子『山種美術館の上村松園』(本体価格 500円)を販売していま
す。
  また、関連イベントもあります。
  9月9日(土)には芥川賞受賞作家 朝吹真理子さんのトークイベント、10月28日(土)か
 らは川合玉堂展が開催されて、その関連イベントとして11月12日(日)にはミュージアム
 コンサート「~故郷~ 箏とフルートの調べ」が開催されます。
  これらの情報は山種美術館ホームページに掲載されていますので、ご覧になってく
 ださい。
    

続いて明治学院大学教授で山種美術館顧問の山下裕二さんから見どころをスライドでご紹介いただきました。

第1章 上村松園-香り高き珠玉の美

「山種美術館の創立者で初代館長の山﨑種二さんご夫妻が松園と親しく交流された縁で松園の作品18点が山種美術館に所蔵されています。」
「上村松園(1875-1949)は、生涯、もっぱら和服姿の美人画を描いてきました。」
「展覧会の冒頭に展示されている《蛍》は大正2年に描かれたもので、松園の初期の作品です。女性のスタイルは喜多川歌麿『絵本四季花(上)』の《雷雨と蚊帳の女》(作品右の解説パネルに写真が掲示されています)から借用していると思われます。そして足の指が長いのが不思議ですが、これは曽我蕭白《美人図》からの影響がうかがえます。この作品は、現在では奈良県立美術館蔵ですが、以前は京都の鳩居堂が所蔵していたので、松園は見る機会があったのでしょう。」


上村松園《蛍》(山種美術館)
「次の《新蛍》は1930年に開催されたローマ日本美術展覧会に出品されたもので、江戸時代末期の風俗画を意識しています。」



上村松園《新蛍》(山種美術館)
「《春風》(昭和15年)は後期の作品です。松園はどの作品も手を抜かずきちんと描く画家で、もっとも安定感のある画家といえるでしょう。この作品の朱色は独特で、重要文化財の《序の舞》(東京芸術大学蔵)と共通点があります。」

上村松園《春風》(山種美術館)
第2章 文学と歴史を彩った女性たち

「森村宜永《夕顔》は源氏物語に題材をとったもので、いかにも大和絵らしいですが、驚くのはこの作品が昭和40年代以降に描かれたことです。今では忘れられた存在になってしまいましたが、素晴らしい画家です。」
「松岡映丘は、大正から昭和にかけて重要な画家の一人で、最後の大和絵師と言われています。」

松岡映丘《斎宮の女御》(山種美術館)
第3章 舞妓と芸妓

「小倉遊亀《舞う(舞妓)》《舞う(芸者)》には実際のモデルがいました。小倉遊亀と並んで撮影した写真を比較してみてください。」(作品の横に掲示されています。)
「山川秀峰は雑誌の挿絵で活躍した画家で、雑誌の縁で講談社の野間記念館に多くの作品が所蔵されています。」

山川秀峰《芸者の図》(山種美術館)
第4章 古今の美人ー和装の粋・洋装の美

「《桜下美人図》は菱田春草20歳の時の作品で、当時は春草も美人画を描いていました。左の女性のポーズは、菱川師宣の《見返り美人図》(東京国立博物館蔵)からとったものでしょう。画面の右端にとぼけた表情をした犬がいますが(笑)、近くでよくご覧になってください。」

菱田春草《桜下美人図》(山種美術館)

「《ゆめうつつ》は、『Seed山種美術館 日本画アワード2016』で大賞を受賞した京都絵美(みやこえみ)さんの作品です。髪の毛の細かい描写までよくご覧になってください。」
「今回の展覧会では、それぞれの作品のディテールまでじっくり見て楽しんでいただければと思います。」(拍手)
京都絵美《ゆめうつつ》(山種美術館)



展示室内に移り、山﨑館長のギャラリートークをおうかがいしました。

「上村松園はとてもまじめな方で、水面下の努力をしていた方でした。松園が描いたのは美人画でしたが、山水画や風景画など、古い作品の模写をした縮図帳が何冊も残されています。」

「《蛍》は、蚊帳越しに描く女性の姿が松園ならでは、と感じさせる作品ですが、着物の柄は大正時代に流行したアールヌーボー様式で、松園の独創的な面を見ることができます。」

「松園作品は表装具も美しいので、ぜひ注目していただきたい。《春のよそをひ》の中廻し(本紙を取り囲む部分)の意匠は片輪車です。《春芳》の一文字(本紙の上下の細長い部分)には松園が自分で選んだ辻が花風の裂が使われています(「辻が花」は着物の模様染めの一種)。」
「京都の『岡墨光堂』には今でも松園作品の表装に使われた裂地が残っています。」

上村松園《春のよそをひ》(山種美術館)


上村松園《春芳》(山種美術館)
「戦争画を描いていない松園ですが、昭和19年には芸術院会員陸軍献納画展に《牡丹雪》を出展しています。モデルは女性ですが、雪の重みに耐えるところを描いたのでこの時代に描くことが許されたのでしょうか。はらはらと舞う牡丹雪を一つ一つ丁寧に描き分けているのでご覧になってください。」

上村松園《牡丹雪》(山種美術館)
「《砧》では、置物に金箔や銀箔が使われています。女性の指の先が少しピンク色になっているのがわかりますでしょうか。寒くなると指の先が赤くなりますが、寒さの中、夫を思いこれから砧を打とうとする場面を表しています。」
「モデルをほとんど使わなかった松園ですが、それでもこういう細やかなところに気がつくところが松園の素晴らしいところだと思います。」

「小林古径《清姫》は、古径が絵巻物にするため手元に大切に持っていた8枚の絵を、祖父の種二が美術館を建てるなら、ということでお譲りくださり、当館所蔵になったもので、今回は女性が描かれた2枚を展示しています。女性の髪から鬼気迫るものが感じられます。」

小林古径『清姫』のうち《寝所》(右)《清姫》(左)
(山種美術館)

「今村紫紅《大原の奥》と小林古径《小督》は平家物語に取材したもので、紫紅は現代的な女性、古径は古典的な女性を描いています。」

今村紫紅《大原の奥》(右)、小林古径《小督》(左)
(山種美術館)

「橋本明治の作品は太い輪郭線を用いて、色彩も発色のある色を使って独自性が感じられる作品を描いています。」

右から、橋本明治《月庭》《舞》《秋意》
一番左は片岡球子《むすめ》
(山種美術館)


「鳥居清長の《社頭の見合》は八頭身のスラリとした女性たちが特長です。喜多川歌麿の《青楼七小町 鶴屋内 篠原》は髪の毛の細かい線まで表現されています。歌麿は、出版業者・蔦屋重三郎のもとで美人画を描き、写楽は役者似顔絵を描きました。」
(浮世絵作品は前期(~9/24)と後期(9/26~10/22)で展示替えがあります。)

左から鈴木春信《柿の実とり》、鳥居清長《社頭の見合》、
喜多川歌麿《青楼七小町 鶴屋内 篠原》
(山種美術館)(9月24日までの展示)



「菱田春草は珍しく浮世絵の影響を受けた作品を描いています。桜の表現がとても素晴らしいです。」

右から菱田春草《桜下美人図》、小林古径《河風》、
伊藤小坡《虫売り》(山種美術館)

「他にも、松園の作品が気に入り『松園作品の裏まで見たい』と言った、同じく美人画の名手・鏑木清方の作品も展示しています。みなさまぜひゆっくりとご覧になってください。」(拍手)

山下さん、山﨑館長からはこのブログでは紹介しきれないほどの興味深いお話をおうかがいしました。
とても素晴らしい展覧会です。ぜひとも実際に会場に足を運んで美人画ワールドを体験してみてはいかがでしょうか。