2018年4月6日金曜日

第4次メルケル内閣はどこへ向かっていくのか?(1)

「選挙に負けて連立交渉に勝ったSPD」

3月14日に発足した第4次メルケル内閣の政党ごとの大臣ポストの割り当てを見て、ふと、こういったフレーズが頭の中に浮かんできた。

全部で15ある大臣ポストの配分は、CDU 6、SPD 6、CSU 3。
連邦議会での議席数は、ともに議席数を減らしたCDUが200(-55)、CSUが46(-10)、そして「歴史的な敗北」を喫したSPDが153(-40)なので(カッコ内は前回2013年選挙時との比較)、この三党の議席数を見ると、大臣ポストの配分は明らかにバランスを欠いている。
それに大臣ポスト数だけではない。財務相、外務相といった主要ポストまでSPDが占めることになった。

昨年9月24日の連邦議会選挙の敗北を受けて当時のシュルツSPD党首は、「大連立は組まない!SPDは野党になる!」と宣言したが、CDU/CSU、FDP、緑の党によるジャマイカ連立交渉の決裂後、SPDはCDU/CSUとの連立交渉のテーブルに着き、首相になることにこだわり続けたメルケル氏の足元を見透かして、見事に実をとった形になった。

どうにか首相の座を確保したメルケル氏だが、CDU内部からも「妥協しすぎ」との批判が出て、党内での求心力が低下している中、今後どのようなかじ取りをしていくのだろうか。
第4次メルケル内閣の顔ぶれを見ても必ずしもメルケル氏の政策に好意的でない政治家が入閣しているので、メルケル首相がどうバランスをとっていくのか興味深いところ。
ちょうどZDF”Heute"に各大臣の紹介記事が掲載されていたので、ここで紹介してみたい。政府の公式プロフィールと違って、所々スパイスが効いているので、そのニュアンスを活かしながら簡潔に訳してみた。(カッコ内は筆者の補足)。

(顔写真はこちらをご参照ください。)
  第4次メルケル内閣の顔ぶれ

新メルケル内閣の新しい大臣の顔ぶれ

財務相兼副首相  オーラフ・ショルツ(Olaf Scholz) SPD 59
  前ハンブルク市長(ハンブルクは都市州なので州首相に相当)
 CDU/CSUの政治家からも財政健全化策のさらなる推進を期待されている。ハンブルク州内務相、連邦労働相を歴任、2011年からハンブルク市長、と政治経験は豊富。
外相 ハイコ・マース(Heiko Maas)  SPD  51歳 
  前司法相。ガブリエル前外相は「彼なら素晴らしいことをやってくれるだろう。」とコメント。2013年にザールラント州経済労働相から連邦司法相に就任。法律学者。
経済相 ペーター・アルトマイヤー(Peter Altmeier) CDU 59歳
  前首相府長官。メルケル首相の信任が特に厚い。今後はエネルギー政策のかじ取りも担うことになる。
内務相 ホルスト・ゼーホーファー(Horst Seehofer) CSU  68歳
  前バイエルン州首相。今後は住宅部門と地域振興(※)も担当することになるが、内務省が肥大化するとの批判も。
法務相 カタリナ・バーレイ(Katarina Barley) SPD  49
  家庭相から法務相へ。法曹界では弁護士、裁判官、続いてラインラント=プファルツ州司法省の担当官を歴任。
首相府長官 ヘルゲ・ブラウン(Helge Braun) CDU  45歳
  表舞台に出ることはあまりなかったが、首相府では知られた顔。首相府では連邦と州の調整を担当する政務次官で、特に州間財政調整と難民危機を担当。
家庭相 フランツィスカ・ギフィ(Franziska Giffy) SPD 39
2015年からベルリン・ノイケルン区長。「地方自治の源泉は現場を見ること。」がモットー。前任のハインツ・ブシュコフスキーのもとで同区の欧州委員を経験。フランクフルト・アン・デア・オーデル出身の政治学者。
労働相 フーベルトゥス・ハイル(Hubertus Heil SPD  45
  SPD院内副総務。2005年から2009年まで党幹事長。1350億ユーロ(17.55兆円)の予算を受け持ち、年金改革を担当する。政治学者。1998年からSPDの連邦議会議員。
農業相 ユリア・クレックナー(Julia Klöckner) CDU 45歳
  ラインラント・プファルツ州のCDU党首。2009年から2011年まで農業省の政務次官。今回は大臣として農業省を所管する。
交通相 アンドレアス・ショイヤー(Andreas Scheuer) CSU  43歳
  交通相としてディーゼル・スキャンダルに取り組まなくてはならない。交通分野は初めてではなく、2009年から2013年まで交通省政務次官を務めた。
CSU幹事長としてメルケル首相の難民政策を強く批判している。
国防相 ウルスラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen) CDU 59歳
  国防軍の装備不足を批判されても国防相に留まった。2005年からメルケル内閣で家庭相、労働相を歴任。
保健相 イェンス・シュパーン(Jens Spahn) CDU 37
  メルケル首相は党内のもっとも批判的な議員を内閣に迎え入れた。CDUの保守的路線を主張する政治学者。前財務相政務次官。
環境相 スベンニャ・シュルツェ(Svenja Schulze) SPD 49
  約20年、ノルドライン・ヴェストファーレン州の政治に携わっていた。2010年から7年間、同州の教育相。同州の教育無償化を実現。その後、同州のSPD幹事長。
教育相 アーニャ・カルリチェック(Anja Karliczek) CDU 41歳
  新閣僚の中ではおそらくもっとも表舞台に顔を出していない。2013年から連邦議会議員。昨年からCDU/CSUの院内総務。彼女の教育相への任命は多くの人にとってサプライズ。
経済協力・開発相 ゲルト・ミュラー(Gerd Müller) CSU   62
  フォン・デア・ライエン国防相と並んで二人目の留任。1994年から連邦議会議員。経済協力・開発相として、難民の原因を抑えることに取り組まなくてはならない。いわゆる「アフリカ版マーシャルプラン」を提唱。

(※)ドイツ語ではHeimat。Heimatは、故郷、故国といった意味であるが、今まで連邦政府にはHeimatを所管する省がなく、実際に何を所管するのかはっきりしていない。手がかりとしては、ゼーホーファー内務相の故郷(Heimat)バイエルン州の財務省。同省は地域開発と”Heimat”も所管していて、主な業務は、ITのインフラ整備、地域振興のため官庁支所の設置、地域の土地政策、地域の文化保護とあるので、とりあえず「地域振興」と訳した。

メルケル首相が警戒しなくてはならないのは、主要ポストを押さえて自分たちの政策の実現を進めようとするSPDだけでない。
CDUの姉妹政党CSUも、今年の秋にバイエルン州議会選挙を控えていて、AfDがこれ以上票を伸ばすのを許すわけにはいかない。移民や難民に対して批判的な声が大きくなる中、CSUがメルケル首相の寛大な難民政策を阻止することは予想に難くない。

さて、このようにようやく成立したものの、連立内にも火種をかかえた第4次メルケル内閣はどこへ向かっていくのだろうか?

次回は、この第4次メルケル内閣を有権者がどう受け止めているのか見ていきたい。
(次回に続く)